2014年3月30日日曜日

第二十二回 研鑽句会


最高得点句

お茶をついでもらう私がいっぱいになる

コンプリート句

若さとはこんな淋しい春なのか

互選集計

(5点)お茶をついでもらう私がいっぱいになる◎◎〇△
(4点)夜が淋しくて誰かが笑いはじめた◎〇〇
(3点)気の抜けたサイダーが僕の人生◎◎●△
(3点)遠くから貴女とわかる白いブラウス◎〇△△△
(3点) かあちゃんが言えて母のない子よ〇〇〇△
(2点)洗面器の中のゆがんだ顔すくいあげる〇〇△△
(2点)裸をふいてもらい月にのぞかれてい〇〇△
(2点) 若さとはこんな淋しい春なのか◎〇●△
(2点)春風の重い扉だ〇〇△△
(1点)だんだん寒くなる夜の黒い電話機〇△△△
(1点)淋しさは夜の電話の黒い光沢〇△
(1点)今日がはじまる検温器のふたとる〇△
(1点)影もそまつな食事をしている〇△△
(1点)立ちあがればよろめく星空〇△
(1点)父と子であり淋しい星を見ている〇△
(0点)点滴と白い月とがぶらさがっている夜△△
(0点)あけっぱなした窓が青空だ△
(0点)合掌するその手が蚊をうつ△△
(0点)雨降りは遊びに行けないボクの長ぐつ△
(0点)淋しい犬の犬らしく尾をふる△
(0点)鬼とは私のことか豆がまかれる△
(0点)電話口に来てバイバイが言える子になった△
(0点)水滴のひとつひとつが笑っている顔だ△
(0点)何もできない身体で親不孝している△
(0点)初夏を大きくバッタが飛んだ△△△
(0点)抱きあげてやれない子の高さに坐る△
(0点)ずぶぬれて犬ころ〇●△△△△
(-1点)淋しい指から爪がのびてきた●△△
(-1点)無口な妻といて神経質な夏暑くなる●△△
(-2点)自殺願望、メラメラと燃える火がある●●△△


【作者発表】

全句、住宅顕信(1961-1987)。

第二十二回 鍛錬句会


最高得点句

噛むごとに夜は白む  働猫

コンプリート句

あの猫さっきもおったでおっちゃん  水名
人混み抜けて指が十本ある  雪兎

互選集計

(6点)噛むごとに夜は白む◎〇〇〇〇
(3点)今日を終えるココアぬくい〇〇〇△
(3点)春の別れに煙草が震える◎〇△△
(2点)遺されて冴え返る星空をみている〇〇△
(2点)別々のベッドから月見えて寝る◎△
(2点)缶コーヒー握る夜があったかい〇〇△
(2点)猫の墓にできていたシーソー◎△△
(2点)夜の公園小さな火を灯す〇〇
(2点)いつもの扉開け鍵の光る◎△
(2点)あの猫さっきもおったでおっちゃん◎〇●
(2点)人混み抜けて指が十本ある◎〇●△
(1点)嘲笑の響く夕暮れの美容室〇△△
(1点)夕暮れ遠く子らの駆ける〇△
(1点)店長お前とは話しとうない昼飯〇△
(0点)あえて飛び乗れるカラス△△
(0点)紅梅も白梅も満月△△
(0点)見限らない事が償い〇●△
(0点)たどりついた羽蟻を看取るリノリウム△
(0点)少しだけかすらせてから引き寄せる△
(-1点)猫殴るお前弱ってきた春寒〇●●△
(-1点)花びら埋めるたぶん最後のひとり●△△

※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。

作者発表(投句順、編者除く)

【畠働猫】
噛むごとに夜は白む
たどりついた羽蟻を看取るリノリウム
別々のベッドから月見えて寝る

【中筋祖啓】
見限らない事が償い
あえて飛び乗れるカラス
少しだけかすらせてから引き寄せる

【藤井雪兎】
嘲笑の響く夕暮れの美容室
人混み抜けて指が十本ある
いつもの扉開け鍵の光る

【風呂山洋三】
春の別れに煙草が震える
夜の公園小さな火を灯す
缶コーヒー握る夜があったかい

【十月水名】
猫の墓にできていたシーソー
あの猫さっきもおったでおっちゃん
花びら埋めるたぶん最後のひとり

【小笠原玉虫】
猫殴るお前弱ってきた春寒
店長お前とは話しとうない昼飯
遺されて冴え返る星空をみている

【馬場古戸暢】
夕暮れ遠く子らの駆ける
紅梅も白梅も満月
今日を終えるココアぬくい

2014年3月15日土曜日

詩の言葉としての季語 ―佐々木貴子句集「ユリウス」―


この度、twitterで交流させていただいている俳人の佐々木貴子氏から氏の初句集「ユリウス」をいただいた。改めてお礼申し上げたい。

まず句そのものにふれる前に、氏の記したあとがきに注目すべき発言があったので引用する。

「…およそ十七年に及ぶ俳歴を振り返るに、そのほとんどは有季定型に対する内面的な葛藤であったと思います。表現したい何かがあるとして、それが何故季語という壁に対峙しなければならないのか、窮屈な十七音のスケールに削ぎ落とさなければならないのか、常に疑問を持ちつつも、その制限の中で表現することに、わずかながらの挑戦心をもって臨んできました。」(P170)

このような思いを持ちつつも、氏が自由律に傾かないのは興味深い。むしろ季語と十七音という制限が創作の源泉となっているようだ。私の俳歴も定型から始まったが、季語は最初から拒否していた。季語を使った俳句は、「他の誰かが書いてくれるだろう」といったある意味他人任せなところがあったし、季語の全てに感情移入するのは無理だと悟っていたからだ。詩の言葉は各人のポエジーがその都度求めるものであって、外部から押しつけられてはならないのだ。

さて、前書きはここまでにして、氏の句について語りたい。全篇を通して読んだが、言葉が油断していない。常に緊張して言葉を選んでいるといった印象がある。有季定型に対する葛藤の影響もあるのだろうが、むしろ文学表現として俳句と真摯に対峙しているがためであろう。


バラ咲いてひどく自由な昼下り

バラの可憐さに溺れず、突如現れた自由に対する疑問を呈している。このままで終わるわけが無いと本能的に知っているかのように。

金色の毬と歩きし雪野かな

氏はこういった美しい景を提示するものの、その美しさに全く拘泥していない。絶えず何かが「鳴っている」のだ。ノイズのような耳障りな音ではなく、あの世からこちらを誘うような声が。

あじさいや父の雑音母の無音

季語が詩の言葉として機能していない句はいただけないが、これは瑞々しさの中で静かに佇むあじさいの様子が違和感なく句全体に溶け込んでいる。

みな死んで赤い風船だけ残る

風船は一応春の季語ではあるが、ここではそういう事を気にしている場合ではない。むしろ季語だと意識すると、この句の衝撃が薄まってしまうだろう。皆の魂の象徴として天へと昇る風船が印象的。

垂涎の爺がまさぐる繭の穴

これが一番感銘を受けた句である。繭の穴をまさぐる理由は色々と考えられるが、その行為を「垂涎の爺」がするとは!見てはいけないものを見てしまった感があるが、己の業、ひいては人の業と向き合うのであれば、このような句から目を逸らしてはならないだろう。繭も一応春の季語ではあるが、むしろこの場合は春の句として読むより、こういった異常な景を作り出した黒幕が春と捉えるべきだ。わざわざ季節を意識しなくても、我々人間はそれに影響を受けているのだから。


季語に寄りかかり過ぎず、俳句の伝統に頼り過ぎず、表現すべきものを真摯に追い求めている良い句集だった。私は私で自由律俳句に対する葛藤があるが、氏の姿勢を見習って、それを創作に生かしていきたい。

2014年3月11日火曜日

馬場古戸暢を読む その一

友の声遠く意固地
実際の景とは違うかもしれないが、ノスタルジアをくすぐられた句。小学生の頃、友達とケンカをして「もう絶交だからな!」などと離れた位置から互いに叫んだもの。もちろん翌日には、また仲良く遊ぶのだが。大人になると、そうもいかないから困ったものだ。


叫んだ夜道で目が合った
仕事の帰り道、独り言を呟いた後にふと顔をあげると、他人に見られていた。なんてこと、あった気がする。気を付けなければ。


俺のからだを作るがいい焼肉を喰らう
焼肉を食べる時、なぜだか気合いが入ってしまう。そんな心境を見事に言い表している。いつまでも肉食でありたいものだ。

夜のかたちに寝相を変える
面白い句。『草原』が届くと毎月必ず選句を行っている。この句も他の句同様、印が付けられていた。ただ他の句とは違うのは、なぜ選んだかを忘れたということだ。何度か音読するうちに、ようやく思い当たった。にんまり。得した気分。


ゴミ袋の匂いと眠る
これは私も経験がある。コンビニ弁当の空き箱を入れていると悪臭が漂うのだ。ぜひ蓋付きゴミ箱の購入をお勧めしたい。

不思議な動きの女のヒールが高い
なるほど、よく見ていると感心してしまう。何気ない日常の景を鋭く切り取り、なおかつシンプルに表現する。それが古戸暢さんの句の特徴であろう。見習いたいものである。


※『草原』H25年6月号~平成25年11月号より

2014年3月5日水曜日

さはらこあめさんの句集感想文

生身の人物としてのさはらこあめさんは、桁外れに不器用な人間であった。
問答無用極まりない勘違いの数々。
それはまさに、自分で自分の才能に気がついていない以外の何者でも無かった。

「一体全体、どうやったらこんな事になるのだろう???」

この度、こあめさんの句集感想文を書くにあたり、余りにも本人の性格が強烈すぎる為、
冷静に句集を評価することは、どうにもこうにも困難な出来事であった。

この人が自覚していない才能とは、すなわち、

・過剰に相手に合わせることによって、時間の内容が十倍濃くなる事
・困っているという事に気がついていないくらい、困っている
・決定権を委ねることによって、あらゆる要求を受け入れてしまう事
・結果的に、まわりを全員動かしてしまう事


つまりは、他力本願の天才、という事になる。
そしてまた、句を読むと、

・いきどまりの彼岸花

と、あった。
これが、さはらこあめその人であると思った。

さはらこあめは、『いきどまりの彼岸花』のごとく血まみれの俳人なので、この人に対して、
「甘えるな」「我慢しろ」などと言ってはならない。
頭から大量に血を流している人間に、まさかそんな事は言えないはず。

むしろ、命令をするならば、「我慢するな」「排泄しろ」と、言いたい。
決定権を委ねることによって、あらゆる要求を受け入れてしまう他力本願の天才に、
命令を、するならば、

「我慢するな、もっと排泄をしろ。」

と、いう事になった。


そして・・・・・・、この人が、我慢せず、排泄をした中身は、

・もっと、みんなと仲良くなりたい

と、いう事であった。

2014年3月1日土曜日

第二十一回 研鑽句会

最高得点句
からだぢうが月になつて手すりに手を置く

コンプリート句
からだぢうが月になつて手すりに手を置く

互選集計
(7点)からだぢうが月になつて手すりに手を置く◎◎○○○○● ※コンプリート句
(4点)漕ぐ手を休め水にうつる◎◎△△
(4点)たんぽぽの花に煙草の煙かけて恋する者よ◎◎△△
(3点)子供が見ている木の実落ちず○○○△△△
(3点)みんな寝たあと花が黄色い花粉をこぼす◎○△△
(2点)若き日がゆくたんぽぽは空を見てばかり◎△△
(2点)弱い秋の日の草に残つたほのかな体温○○△
(2点)ながい日の本が静かに厚みをもつ○○
(1点)手も足も手で洗つている○△△△△
(1点)月夜のそこだけが暗くて映画館の裏道○○●△
(1点)ビールの泡が消えてからの春の浪音○△△△
(1点)子供の先生の木一つない家をたづねる○○●
(1点)履歴書をかく父と算術をしている子と秋の夜○△△
(1点)ここも此の世かかかる所に野はひろし○△
(1点)夜の花瓶が真赤にて寝汗びつしり○△
(0点)月を見て眠つた子月が残つている○●△
(0点)軍服の写真と未亡人といつも寝ている猫○●△
(0点)林檎を描き一日林檎とともにある○●△
(-2点)答の小さい割算割つてねむくなつている●●△
(無点)空は灰色に静まりてもろき木の葉なり△△
(無点)網棚の旅行鞄も畑の鴉も停まつている汽車△△
(無点)手紙なら青い切手で港に船がまつている△△
(無点)海、風呂敷がひろがつて落ちている△△
(無点)雀囀り鴉は少し遠くにいる△△


※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。


【作者紹介】

※全句、芹田鳳車。出句は彼の第三句集『自画像の顔』より。

芹田鳳車(せりた・ほうしゃ)
1885年10月28日、兵庫県網干に生まれた。旧姓児島、姫路市鷹匠町、芹田家に入婿。日本大学商科卒。「懸葵」「宝船」等に投句していたが、「層雲」創刊とともに井泉水に師事した。1948年、輪禍に遭って脚部骨折、1954年6月11日、脳溢血にて長逝、行年70。句集『雲の音』『生ある限り』『自画像の顔』がある。(『自由律俳句文学史』より)

第二十一回 鍛練句会

最高得点句
バス間違えてマッコウクジラが見える

雪も海もない国の長い話だ

コンプリート句
バス間違えてマッコウクジラが見える

喉笛に喰いつく花の匂いの猫なり

互選集計
(5点)バス間違えてマッコウクジラが見える◎◎○○●△ ※コンプリート句
(5点)雪も海もない国の長い話だ◎○○○
(3点)息の白さも我が部屋○○○△△△
(3点)ひらけごま春の雨春の光◎○△
(3点)原稿書き終わらぬ頭に隙間風◎○△
(3点)冬の檸檬を齧って香気の結晶をみた◎○
(2点)飛び込んでいく事が礼拝○○△△△
(2点)お前のいい匂いの秘密に触れて春待○○△△
(2点)みんな冷たい石になると教えた◎△△△
(2点)喉笛に喰いつく花の匂いの猫なり◎○● ※コンプリート句
(1点)仕事終わりの冬の星空立ち止まる帰る○△△
(1点)仮止めの幸福はやっぱり飛んで消えて満月○△△
(1点)蓑虫は蓑虫のままてぶくろも見つからないまま○△
(1点)それぞれの約束の地へと出荷される座薬○△
(1点)煙草の切れた真夜中アクセル踏み込む○△
(0点)正解は一旦下に置き開ける○○●●
(0点)ご馳走様でした釣銭こそこそと拭う○●△
(-1点)雪催ちょうどダンスが終わったところ●△△
(-2点)食っちゃった絶滅したはずの動物●●△△
(無点)孕み女睨む孕み女か△△
(無点)生き物が全てひとえに見ゆる時△△
(無点)おっぱい飲んで姪はゆっくり歩きはじめた△△
(無点)深夜のバイクの遠ざかる音寝床の寒い△△
(無点)月夜残る雪に懺悔△


※以上全24句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。


作者発表(投句順 編者除く)

【馬場古戸暢】
息の白さも我が部屋
おっぱい飲んで姪はゆっくり歩きはじめた
原稿書き終わらぬ頭に隙間風

【小笠原玉虫】
冬の檸檬を齧って香気の結晶をみた
お前のいい匂いの秘密に触れて春待
喉笛に喰いつく花の匂いの猫なり

【中筋祖啓】
生き物が全てひとえに見ゆる時
飛び込んでいく事が礼拝
正解は一旦下に置き開ける

【畠働猫】
月夜残る雪に懺悔
蓑虫は蓑虫のままてぶくろも見つからないまま
仮止めの幸福はやっぱり飛んで消えて満月

【十月水名】
食っちゃった絶滅したはずの動物
ひらけごま春の雨春の光
バス間違えてマッコウクジラが見える

【風呂山洋三】
仕事終わりの冬の星空立ち止まる帰る
深夜のバイクの遠ざかる音寝床の寒い
煙草の切れた真夜中アクセル踏み込む

【地野獄美】
ご馳走様でした釣銭こそこそと拭う
雪も海もない国の長い話だ
みんな冷たい石になると教えた

【藤井雪兎】
孕み女睨む孕み女か
雪催ちょうどダンスが終わったところ
それぞれの約束の地へと出荷される座薬