2014年12月31日水曜日

鉄塊第七回VT句会選句選評結果



▽最高得点句

剥製の硝子の眼玉冬きたる (12点)【小笠原玉虫】



▽部門ごと上位句
 
【自由律俳句】(3句)
受け継がぬ家を掃き清めている    ( 8点)【このはる紗耶】
夕日揺らして焼芋屋来る       ( 7点)【タケウマ】
葱太ければそれでよゐ        ( 6点)【さゆり】



【定型俳句】(5句)
剥製の硝子の眼玉冬きたる      (12点)【小笠原玉虫】
街灯をにじませて居りどぶの湯気   ( 5点)【前田_獺太郎】
トランプに白紙のカード冬薔薇    ( 4点)【鈴木桃宙】
禿頭にのせる乳房や冬の月      ( 4点)【タケウマ】
嫌はれて捨てられてまだ葱でゐる   ( 4点)【さゆり】



【題詠句(兼題「宴」)】(3句)
祝宴の廊下の闇を冬といふ      ( 8点)【菜月】
ゆうべのビールあおって宴のあと   ( 3点)【前田_獺太郎】
宴果てもう会わぬ背が白い      ( 3点)【畠働猫】



【コンプリート句】(◎と○と●のすべてを獲得した句)(0句)
該当句無し



▽個人別合計上位者

菜月     (13点)
小笠原玉虫  (13点)
さゆり    (12点)
タケウマ   (12点)
鈴木桃宙   (11点)
前田_獺太郎  (10点)
このはる紗耶 (10点)

 


▽互選集計結果

剥製の硝子の眼玉冬きたる             (12点)◎○○○○○○○○○○△△
受け継がぬ家を掃き清めている           ( 8点)◎○○○○○○△△
祝宴の廊下の闇を冬といふ             ( 8点)◎○○○○○○△△△
夕日揺らして焼芋屋来る              ( 7点)◎◎○○○△△
葱太ければそれでよゐ               ( 6点)◎○○○○△△
男を生むいつか私も姑になる            ( 5点)◎○○○△△△
本を開けば呼ばれる                ( 5点)○○○○○△△△
遅れてきた男が傘を持っている           ( 5点)○○○○○△△
街灯をにじませて居りどぶの湯気          ( 5点)◎○○○△△△
満ちて星々は裸だ                 ( 4点)○○○○△△△△
トランプに白紙のカード冬薔薇           ( 4点)◎○○△
禿頭にのせる乳房や冬の月             ( 4点)○○○○○●
嫌はれて捨てられてまだ葱でゐる          ( 4点)◎◎△△
死に場所も選べないポインセチアが真つ赤      ( 3点)◎○△△△△△
「一口いる?」のスプーンが性の目覚め       ( 3点)○○○△△△
猫行く道を落葉行く                ( 3点)◎○△
透明な花の散る音星月夜              ( 3点)○○○△△
手袋のグーチョキパーのもどかしさ         ( 3点)◎○△△
ゆうべのビールあおって宴のあと          ( 3点)○○○△△
宴果てもう会わぬ背が白い             ( 3点)○○○△△
次の事故を右に曲がる               ( 2点)○○△△
病気切り取ってくれた君ごと捨てる         ( 2点)◎△△△
あばかれて空は午後五時のサイレン         ( 2点)○○△△
ああやはりそういうさだめなのですね        ( 2点)○○△△△△
冬の星優しき人でありなさい            ( 2点)◎△△
君の中でふやけし指や狂い花            ( 2点)○○△
ここに愛がある冬日に入る素足           ( 2点)○○△△
マリッジブルーの最中や兎抱く           ( 2点)◎△△△△△
カンテラに心臓といふ火や冬至           ( 2点)○○△△△
アルパカも牛も反芻ばかりしている宴だ       ( 2点)◎△△
さかる宴の二人無口な               ( 2点)○○△△
訓読みは切なさのあり宴かな            ( 2点)◎△△
空っ風が責める裏切り者でいる           ( 1点)○○●△△△
グラスからこぼれ落ちたる冬の夜          ( 1点)○△
柚子の湯やカピバラたちの菩薩めき         ( 1点)○△△△
咳をしてあしたへ歩く草鞋編む           ( 1点)○△△△
冴ゆる夜の宴に顔のない男             ( 1点)○△△
となりの宴だれか叱られている           ( 1点)○△△△
ふりおつる宇宙透視図 雪の宴             ( 1点)◎●△△
霜柱踏み踏み宴より帰る              ( 1点)○△△△
雪見風呂宴はカラオケの時間            ( 1点)○△△
寂しさうな人から宴に酔ひにけり          ( 1点)○△△
文庫本深夜古書店血の指紋             ( 0点)○○●●△△△△
へこんだら倒れたままだ缶ビール          ( 0点)○●△△
酒呑んで話したいひとり秋の宵           (-1点)●△△
菊の宴オール下ネタ一本勝ち            (-1点)●△△
夭折や詩人の書斎知の宴              (-1点)●△△
笑顔あふれる鬱病のひとでした           (-2点)○●●●△△
元カノに似た店員のいる喫茶店にてカフェラテを注文す(-3点)◎●●●●●△
भोज॥आप मौत की दुल्हन खाने के लिए नहीं करना चाहता था  (-3点)○●●●●△△△△△△△
イルミネーションの光が入る部屋からツイート    ( 無点)△△△△
狩ののち宴よ食えよ飲めよ酔えよ          ( 無点)△△
精一杯の恨み込めてか骨の白い           ( 無点)△△△△△
冬の昼日中現実味のない光だ            ( 無点)△△
眼覚めて終ひの棲家の寒夜かな           ( 無点)△△△
夕闇も時雨れて晴れてサドル拭く          ( 無点)△△△
見上ぐればその名よ吐息ふゆ銀河          ( 無点)△△△
村の宴義兄にストング剥がされる          ( 無点)△△△
傘の中雨の宴も佳境なり              ( 無点)△△
どこかの宴会の声にキライを混ぜる         ( 無点)△△
終わらぬ宴の暁の夢                ( 無点)△△
寂寥抱えて宴の散会                ( 無点)△△
バッカスの好くも厭うも宴かな           ( 無点)△△

 
 
(以上、63句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。





▽作者発表(投句順)

上から次の順に掲載
「自由律俳句」
「定型俳句」
「題詠句(兼題「宴」)」


【馬場古戸暢】
猫行く道を落葉行く
夕闇も時雨れて晴れてサドル拭く
終わらぬ宴の暁の夢

 

【さゆり】
葱太ければそれでよゐ
嫌はれて捨てられてまだ葱でゐる
訓読みは切なさのあり宴かな



【畠働猫】
次の事故を右に曲がる
ここに愛がある冬日に入る素足
宴果てもう会わぬ背が白い



【前田_獺太郎】
あばかれて空は午後五時のサイレン
街灯をにじませて居りどぶの湯気
ゆうべのビールあおって宴のあと



【北大路京介】
病気切り取ってくれた君ごと捨てる
咳をしてあしたへ歩く草鞋編む
菊の宴オール下ネタ一本勝ち



【千花】
本を開けば呼ばれる
透明な花の散る音星月夜
傘の中雨の宴も佳境なり



【このはる紗耶】
受け継がぬ家を掃き清めている
柚子の湯やカピバラたちの菩薩めき
雪見風呂宴はカラオケの時間



【Keiten666】
「一口いる?」のスプーンが性の目覚め
君の中でふやけし指や狂い花
村の宴義兄にストング剥がされる



【えーき】
元カノに似た店員のいる喫茶店にてカフェラテを注文す
カンテラに心臓といふ火や冬至
寂しさうな人から宴に酔ひにけり



【琳譜】
精一杯の恨み込めてか骨の白い
見上ぐればその名よ吐息ふゆ銀河
ふりおつる宇宙透視図 雪の宴



【菜月】
死に場所も選べないポインセチアが真つ赤
マリッジブルーの最中や兎抱く
祝宴の廊下の闇を冬といふ



【鈴木桃宙】
男を生むいつか私も姑になる
トランプに白紙のカード冬薔薇
アルパカも牛も反芻ばかりしている宴だ



【笛地静恵】
ああやはりそういうさだめなのですね
文庫本深夜古書店血の指紋
夭折や詩人の書斎知の宴



【小澤温】
満ちて星々は裸だ
眼覚めて終ひの棲家の寒夜かな
भोज॥आप मौत की दुल्हन खाने के लिए नहीं करना चाहता था



【寺田人】
狩ののち宴よ食えよ飲めよ酔えよ
冬の星優しき人でありなさい
霜柱踏み踏み宴より帰る



【武里圭一】
冬の昼日中現実味のない光だ
酒呑んで話したいひとり秋の宵
寂寥抱えて宴の散会



【風呂山洋三】
笑顔あふれる鬱病のひとでした
グラスからこぼれ落ちたる冬の夜
さかる宴の二人無口な



【木曜何某】
イルミネーションの光が入る部屋からツイート
へこんだら倒れたままだ缶ビール
どこかの宴会の声にキライを混ぜる



【タケウマ】
夕日揺らして焼芋屋来る
禿頭にのせる乳房や冬の月
冴ゆる夜の宴に顔のない男



【吉村一音】
遅れてきた男が傘を持っている
手袋のグーチョキパーのもどかしさ
となりの宴だれか叱られている



【小笠原玉虫】
空っ風が責める裏切り者でいる
剥製の硝子の眼玉冬きたる
バッカスの好くも厭うも宴かな



以上21名





▽以下、コメント欄に参加者選評を掲載する。

2014年12月23日火曜日

2014年を振り返る



武里圭一

【自選句】


飛び込めば死ねるトラックが走る
凶悪な憂鬱でバットだけは吸うていた
雨、滴匂い立つ窓が濡れている
かなしみは見えるところにおいておく
訣別したい街の杭

【他選句】

海が薫る橋で泣く 古戸暢
咳、訃報、咳 働猫
乱世 それはそれとして眠たいわたし 久光良一(新懇)
透析生活 旅広告の旅いつもしている 松養榮貞(新懇)
図書館の老いの咳 気がかりに 山浦達朗(新懇)

※総評

 自選は句作帳など何も見なくとも頭で覚えているものを。「飛び込めば死ねるトラックが走る」、この句を詠んだ直後、車に轢かれたらしい鼬の死骸を見たせいか、最も印象に残っています。
 他選の上二句は句会報を拝見した際記憶に残ったものから。下三句は新懇より。「咳、訃報、咳」、働猫さんのこの句は、できれば訃報を聞かなかったことにしてしまいたい、死を認めたくはない、咳でもって誤魔化してしまいたい、そういう気持が読み取れるように思います。古戸暢さんの「海が薫る橋で泣く」、私も海に泣くとでもいう感じはいつもあって、大いに共感できる感覚です。
 今年はプライベートも含めて今までになく変化の多い年でした。まだまだ句歴といえど二年ポッチの私です、駄句でお目汚しすることも多いと思いますが、今後とも宜しくお願い致します。

―――

畠働猫

【自句5句】

桜咲くかしら痩せた手をとる(働猫)
さよなら揺れてカンパニュラ夜香る(働猫)
迷いは薄墨色の夜に溶く(働猫)
胸にくちづけて秋茜(働猫)
石仏に祈りに戻る(働猫)

【他句9句(鉄塊5句・ゲスト4句)】

かわるがわる地球儀を抱くあにおとうと(藤井雪兎)
冬の檸檬を齧って香気の結晶をみた(小笠原玉虫)
あの猫さっきもおったでおっちゃん(十月水名)
拾いに来ないボールのあって夏の昼(風呂山洋三)
海が薫る橋で泣く(馬場古戸暢)

<鍛錬句会招待者>
電気消す派のきみの骨白かった(りんこ)
会えなくなる人の目玉かわいている(うぐいす)
火事じゃない火の燃え盛る(ロケッ子)

<VT句会>
もうあなたの声聞こえない夜へ風花(タケウマ)

【選評において印象的であったこと】

・第五回VT句会における偶然のコラボレーション
***************************

愛人にするなら誰だ童貞ども(ゆなな子)

 △きゃりーぱみゅぱみゅでお願いします。(タケウマ)
 △木村多江でお願いします。(働猫)

***************************

※総評

【自句5句】

 自句に関しては、今年はこれといった収穫がなかったように思う。今年の句としてぱっと思い浮かぶものが無かった。
 句歴も2年が経過し、自己の内奥にある井戸が枯渇したのかもしれない。そこに充満していた「詠むべき素材」をもう汲み尽してしまった感がある。それはそれで次のステージへ進む時期ということだろう。また、今年は雲庵(錆助)編集の『蘭鋳』に50句を載せていただいた。そちらには今年4月までに作句したものから自選したため、今回の企画では、それ以降の鍛錬句会へ投句した句から選んだ。月毎に出来不出来が鮮明であり、今回選んだ句も特定の月から集中して抜き出すことになった。

【他句9句(鉄塊5句・ゲスト4句)】

 他句については、鍛錬句会およびVT句会において、特選に選んだもの、また強く印象に残った物から選んだ。また、そうして選んだものの中には、鍛錬句会招待者・VT句会参加者の句も多く見られたため、今回それらの句も選ばせていただいた。

【選評において印象的であったこと】 

 次に、今年一年を振り返るに当たって、選評においても印象的だった件を挙げておく。

 タケウマさんはご招待させていただいた鍛錬句会においてもVT句会においても、これまで全句評をしてくださっている。自分も「読む」機会として鉄塊の句会では全句評を心掛けているため、自然、タケウマ評と自分の読みを比較することになる。そうして見ると、選にとるかとらないかは異なるものの、評の内容については共通した部分が多く、勝手ながらシンパシーを感じてしまう。上記に挙げたのはその顕著な例である。VTでは編集作業もしているため、投句・選評ともに自分の分を終わらせてから他者のものを見る。したがって上記の例は全くの偶然である。この奇跡がもしかすると皆さんには伝わっていないかと思い、今回取り上げさせていただいた。

 最後に他句9句についての選評を再掲させていただく。

 まとまりのない文章となってしまったが、それも師走らしかろうかと思い、推敲を省く。

▽かわるがわる地球儀を抱くあにおとうと(藤井雪兎)

 幼い兄弟のほほえましい姿を思い描いた。地球儀を取り合う理由が、久しぶりに帰ってきた父のみやげだからか、それとも世界征服を宿命づけられた兄弟だからか。地球儀を句材にもってきたのがとてもよかった。(働猫)

▽冬の檸檬を齧って香気の結晶をみた(小笠原玉虫)

 これは美しい句だ。五感のすべてを刺激する。「冬」が寒さを感じる触覚、「齧って」が音と味を連想させて聴覚と味覚、「香気」が嗅覚、「みた」が視覚。おそらくは意識的に盛り込んだのであろう。句そのものはもっと整理ができそうであるが、上記のように五感を詠み込むことを目的としたのだと考えれば、これ以上削ることはできなかったのであろうと理解できる。だが、ここまで丁寧に描写しなくとも良かったかもしれない。推敲の余地はまだありそうだ。それにしてもこの一瞬の情景をよく切り取ったものである。(働猫)

▽あの猫さっきもおったでおっちゃん(十月水名)

 「あ(a)の猫さ(sa)っきもお(o)ったでお(o)っちゃん」偶然であるが、韻の踏み方が自句の「た(ta)どりついた羽(ha)蟻を看(mi)取るリ(li)ノリウム」と同じであったので、すぐに意識的な配置と判断できた。内容もほのぼのした情景が想像できてとてもいい。通りに面した床几に座っているのだろうか。それとも公園のベンチか。猫好きなおっちゃんとそれほど猫好きでもない作者との心の交流が微笑ましく描かれている。(働猫)

▽拾いに来ないボールのあって夏の昼(風呂山洋三)

 ぽつり、という音が聞こえそうなよい景だと思います。ただ、変なことも思い出しちゃったな。公園のベンチに座っている。そこにボールが転がってくる。でも子供たちは自分には近づきたくないらしく、拾いに来ようとせずに遠巻きに見守っている。田舎の小学生だったころ、そうやって避けるべき相手として認識していた人物が複数いた。「えぼっちゃん」と「体操じいさん」だ。今思えば、なんらかの障害を持った人とただの老人だったのだが。無知な子供であり、異質な存在は恐怖の対象だった。田舎特有の差別の強さで、大人たちも近づくなと教えていた。自分が無知であったことを振り返るのは本当に嫌なものだ。(働猫)

▽海が薫る橋で泣く(馬場古戸暢)
 「海が薫る橋」でもうすばらしく美しい。こうした情景は想像では描けない。そしてそこでは何をしても絵になるだろう。「泣く」。泣いてしまうのである。涙や悲しみはやがて海へと流れてゆくだろう。美人であってほしい。いや、この景は美人でしか成り立たないものだ。(働猫)

▽電気消す派のきみの骨白かった(りんこ)


 「電気消す派」という表現はなかなか色っぽい。性癖はさまざまであるが、「電気消す派」と「電気点けたまま派」とで明確に二分することができる。「消す派」は、視覚を制限することによってより興奮するというタイプの場合もあるだろうが、やはり一般的には羞恥心の表れと考えるべきであろう。そんな羞恥心の持ち主だった人が、今はその骨の白さまで露わにされてしまっている。そのことが故人への憐憫として表れ、さらにはかつての触れ合いや言葉なども想起させるのだろう。物語が凝縮された句である。自分は相手に合わせる派です。どのみち眼鏡はずしたら線しか見えないのでね。(働猫)

▽会えなくなる人の目玉かわいている(うぐいす)


 眼を見開いたままの死者というのは非常に凄惨な光景である。今まさに恋人の命を奪い、茫然としている情景を思い浮かべた。凄惨ではあるがそうした情景には愛と美しさをも感じてしまうのだ。(働猫)

▽火事じゃない火の燃え盛る(ロケッ子)
 「火事じゃない」と非常を常とする視点がおもしろい。大きな災害で痛みを受けた人の句であろうか。火は恐ろしいものであるが、それを用いずに我々の生活はもはや成り立たない。原子力をはじめとした科学技術全般にも言えることであるが、こうした視点の背景には、詠者の経験や思想が表れるものだ。そしてそれこそが自由律俳句の特徴と言えるのではないだろうか。(働猫)

▽もうあなたの声聞こえない夜へ風花(タケウマ)

 特選。今回の句群(※該当句会は第五回VT句会78句)の中で最も美しい愛の句である。失われたのは当然、声だけではない。風花の冷たい美しさには同時に儚く失われるものを想起させられる。顔を覆い、夜のように黒く長い髪を震わせ、静かに泣く美しい女性を思い浮かべた。(働猫)

―――

風呂山洋三

【自選五句】


夜の疲れた影と出掛ける
拾いに来ないボールのあって夏の昼
壁と話す人のいる夜が明けた
隣から悲鳴のあって夏めく夜だ
春めく道で拾ったナイフだ

【鉄塊五句】

ちょうどよい月のないすきま 水名
子猫いなくなった家のチャイム鳴る 古戸暢
咳、訃報、咳 働猫
それぞれの傘でまっすぐな道 ロケッ子
母娘さざめく風呂場の下を通る 玉虫

※総評
印象鮮烈をテーマに今年一年、句作を続けて来ました。これは選にも言えることができます。来年も引き続き印象鮮烈にこだわり精進して参りたいと思います。

―――

小笠原玉虫

【自選五句】

にじんだ月に泣いてやらない
母娘さざめく風呂場の下を通る
かなしい辛いものを食べる
お前のいい匂いの秘密に触れて春待
どこまでもよそんちが続くつるばらつるばら

【他選五句】

春めく道で拾ったナイフだ  風呂山洋三
お前の名前で乾いた唇切れた  風呂山洋三
バス間違えてマッコウクジラが見える  十月水名
マグカップ恥ずかしいほど割れて目の前に落ちる  りんこ
約束は昨日だったビビデバビデブウ  うぐいす

※総評

今年の鉄塊鍛錬句会は招待制度が始まり、多彩な参加者さまに恵まれましたね。
りんこさん、うぐいすさんと、女性の参加が多かったのがとても嬉しかったです。
鉄塊衆のなかでは洋三さんが冴えていらっしゃいました。
「春めく道で拾ったナイフだ」は中でも非常に優れた句と思います。今年いちばん印象に残っています。
十月さまのマッコウクジラも忘れ難い句。雄大でファンタジック、神話のような趣があると思いました。
わたくし自身は、家族に病気の者が多く、つらい一年となりました。
常に上の空で過ごしているような感じで、春~夏は特にその傾向が強かったように思います。
句の出来もいまいちでした。
が、いまいちなりに自分では気に入っているものを自選いたしました。
「どこまでも~」は海紅に投句したものになります。つるばらつるばらの反復部分が自分ではお気に入りです。

―――

馬場古戸暢

【自選句】

真昼の月あり発泡酒のみきれぬ
子猫いなくなった家のチャイム鳴る
人が燃えたと話す女と新宿におる
薬効いてくる部屋に水滴の音
笑顔の頬へ日射しやわらかい

【他選句】

桜咲くかしら痩せた手をとる  働猫
隣から悲鳴のあって夏めく夜だ  洋三
約束は昨日だったビビデバビデブウ  うぐいす
ふたり汚した雨強くなる  働猫
拾いに来ないボールのあって夏の昼  洋三

※総評
自選句と他選句ともに、鉄塊鍛錬句会投稿句のうち記憶に残っていたものより。


皆さま、よいお年を。



2014年12月4日木曜日

第二十九回 研鑽句会

◇最高得点
なにもかも月もひん曲がってけつかる  一石路

◇コンプリート句
場末で夕日となってころがっていた  一石路

◇互選集計
(4点)  なにもかも月もひん曲がってけつかる  ◎◎△
(3点)  場末で夕日となってころがっていた  ◎○○●  (コンプリート句)
(3点)   二階から足がおりてくる寒い顔になる  ◎○△△
(2点)  寒夜わが酔えば生るる金の虹  ◎△
(2点)  シャツ雑草にぶっかけておく  ○○△△
(2点)  ガード下から春があかるすぎる靴みがき  ○○△△
(1点)  仕事失うている梅雨の二階をおりる  ○△△△
(1点)  たたかいはおわりぬしんと夏の山  ○△△△
(1点)  星空の下の人の世のここに泣く男  ○△△
(1点)  ガード下の寒いビラばかりの中のそのビラ  ○△△
(1点)  ロシア映画みてきて冬のにんじん太し  ○△
(1点)  夜雪よごれ孤児ほおたいを巻きかえす  ○
(0点)  ジャズ現つ紙屑を燃す霜の上  ○●△
(-1点) 故郷を出て十年こんなにも空が青い蜻蛉がふかい  ●△△
(-1点)  「人生は花ですよ奥さん」と花屋売りにくる  ○●●△△
(無点)  人間が爆発しそうな出勤電車でちらとさくら  △△△
(無点)  雨の冬帽置くその人をかこむ夜なり  △△
(無点)  クレーン仰ぐみな年つまる男たち  △△
(無点)  せめて漬菜にふる塩を買いにでてきた  △△
(無点)  夜勤明けの男陸橋越すとき汽笛  △△
(無点)  ボンベより顔長い馬工区曇る  △△
(無点)  どしゃ降る夜の白バラたたかいの目を継ぐ  △△
(無点)  青年海猫へパン投ぐ雪がつどうデッキ  △△
(無点)  雪を見る頭上鉄橋の太き鋲  △△
(無点)  これだけの銭で一と月はたらいて落葉した  △
(無点)  孤児たちに映画来る日や燕の天  △
(無点)  妻病むや夜寒の子らと塩買いに  △
(無点)  ここ草原から都会の憂鬱が見えている気球 △
(無点)  朝寒ドックに太い錨鎖がくっきり白  △
(無点)  ネオンと俺との空間が鳴り十二月  △

以上、30句。

※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点、コメントのみ(△)無点として集計。


◇作者発表

【栗林一石路】
星空の下の人の世のここに泣く男
二階から足がおりてくる寒い顔になる
シャツ雑草にぶっかけておく
場末で夕日となってころがっていた
仕事失うている梅雨の二階をおりる
なにもかも月もひん曲がってけつかる
これだけの銭で一と月はたらいて落葉した
ガード下の寒いビラばかりの中のそのビラ
せめて漬菜にふる塩を買いにでてきた
故郷を出て十年こんなにも空が青い蜻蛉がふかい
ここ草原から都会の憂鬱が見えている気球
たたかいはおわりぬしんと夏の山
人間が爆発しそうな出勤電車でちらとさくら
 「人生は花ですよ奥さん」と花屋売りにくる
花屋の卑しい笑いが目に浮かぶようだ。

【古沢太穂】
ジャズ現つ紙屑を燃す霜の上
ロシア映画みてきて冬のにんじん太し
雨の冬帽置くその人をかこむ夜なり
雪を見る頭上鉄橋の太き鋲
夜雪よごれ孤児ほおたいを巻きかえす
寒夜わが酔えば生るる金の虹
孤児たちに映画来る日や燕の天
クレーン仰ぐみな年つまる男たち
妻病むや夜寒の子らと塩買いに
夜勤明けの男陸橋越すとき汽笛
朝寒ドックに太い錨鎖がくっきり白
ボンベより顔長い馬工区曇る
どしゃ降る夜の白バラたたかいの目を継ぐ
青年海猫へパン投ぐ雪がつどうデッキ
ガード下から春があかるすぎる靴みがき
ネオンと俺との空間が鳴り十二月

第二十九回 鍛錬句会

最高得点
石仏に祈りに戻る  働猫 (4点)

(4点) 石仏に祈りに戻る  ◎○○
(3点) 悔いあって朝風呂の熱い  ◎○△  
(3点) 不在のきみの寝巻きを拾う  ◎○  
(3点) 帰る身に大き過ぎる月   ◎○
(3点) 蠅を逃がす寒空  ○○○
(1点) 夕闇ドウダンの赤を授かる  ◎●△△ 
(1点) 月の鋭角ふれた耳が冷えている  ○○●
(1点) 息切らすバッティングセンターあいつを許そう  ○△△
(1点) にじんだ月に泣いてやらない  ○△
(1点) ぼくに来なかったヒーローとして生きる ○
(0点) 枯れ葉蹴散らすお人好しです  ○●△△
(0点) 弱った父がさみしい野分  ○●△
(-1点)遠のく声に手を振る  ●△
(無点) 禁煙パイポに歯型ついとる  △△△
(無点) 空き缶踏んで我が居間  △△
(無点) こんなひとたくさんいるだろう夜長の窓の淵にいる  △△
(無点) カツカツと夜の道もうすぐ冬が来る  △△
(無点) カレンダーめくるガラスの嘴が立冬だ  △△
(無点) 貝殻が光る幸せに生きればいいのに  △△
(無点) 濡れた草原の空き缶を蹴ってしまう  △△
(無点) 私の知らない苦しみもある白い墓  △
(無点) ゴキブリと出会う野外の十一月二日  △
(無点) リコリスどもの枯れて突っ立つ  △
(無点) 波立つ川面に秋風我が影  △
(無点) 血の気のないキーボードをたたく深秋  △

(以上、25句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。

◇作者発表

【馬場古戸暢】
空き缶踏んで我が居間
禁煙パイポに歯型ついとる
ゴキブリと出会う野外の十一月二日
遠のく声に手を振る
波立つ川面に秋風我が影

【畠 働猫】
石仏に祈りに戻る
私の知らない苦しみもある白い墓
貝殻が光る幸せに生きればいいのに
ぼくに来なかったヒーローとして生きる
帰る身に大き過ぎる月

【小笠原玉虫】
にじんだ月に泣いてやらない
悔いあって朝風呂の熱い
不在のきみの寝巻きを拾う
リコリスどもの枯れて突っ立つ
弱った父がさみしい野分

【風呂山洋三】
息切らすバッティングセンターあいつを許そう
カツカツと夜の道もうすぐ冬が来る
夕闇ドウダンの赤を授かる
枯れ葉蹴散らすお人好しです
蠅を逃がす寒空

【梶原由紀】(ゲスト)
月の鋭角ふれた耳が冷えている
こんなひとたくさんいるだろう夜長の窓の淵にいる
カレンダーめくるガラスの嘴が立冬だ
濡れた草原の空き缶を蹴ってしまう
血の気のないキーボードをたたく深秋

◇ゲスト紹介
「海紅」最年少にして結社誌校正を手掛ける秘蔵っ子。
しかも自身が司会を務めた「自由律俳句フォーラム」では、自由詠の部二位という実力者でもある。

2014年11月25日火曜日

「宴」~第七回 「鉄塊VT句会」開催のお知らせ

第七回鉄塊VT(バーリトゥード)句会 募集要項

【投句締切】 12月12日(金)

【選句表配信】 12月14日(日)

【選句締切】 12月23日(火・祝)

【発表およびブログ掲載】 12月31日(水)

【投句方法】

  以下を課題として、合計三句をご投句下さいませ。

  1)自由律俳句 一句

  2)定型句 一句

  3)兼題【】で一句(形式は自由律でも定型でも可)
        ※句の中に必ず「」を詠み込むかたちでお願い致します。


【参加条件】

  ①「選句選評まで行えること

  ②「発表まで連絡が可能であること

  ※以上、2点。くれぐれもお忘れなきよう宜しくお願い致します。


【投句先メールアドレス】


  ※件名を「第七回鉄塊VT句会投句」としてお送り下さいませ。



2014年11月3日月曜日

第二十八回 鍛練句会


(最高得点句)

海が薫る橋で泣く(4点)
【馬場古戸暢】


それぞれの傘でまっすぐな道 (4点)
【ロケッ子】




(4点)海が薫る橋で泣く◎◎
(4点)それぞれの傘でまっすぐな道◎○○△
(3点)ねじれて燃える秋の金魚だ◎○△
(2点)萩散ってそれでも笑っているしかない○○△
(2点)迷いは薄墨色の夜に溶く◎△
(2点)母娘さざめく風呂場の下を通る○○△
(2点)笑顔の頬へ陽射しやわらかい◎△
(1点)秋の夜へ花火鳴りよる○△△△
(1点)薬効いてくる部屋に水滴の音○△△△
(1点)火事じゃない火の燃え盛る○△
(1点)知らない子が返事する私の名前だ○△△
(1点)王様も俺も裸○
(1点)香水こぼれて時間○△
(1点)何も聞こえない闇にうなじの白い○
(1点)秋の満ちゆく俺でいる食卓○△△
(0点)君と同じ月に雨降る○●△
(0点)オカリナがオカリナを捨てたかたち○●△△
(0点)胸にくちづけて秋茜○●
(-1点)わらいころげなくてはならない校歌●△△
(-1点)たったひとはな残ったあさがお●△
(-1点)痛む手と手重ねてオリオン●△
(無点)お前の与太もさみしい満月△△
(無点)少年の秋キャッチボールを壁とする△△△
(無点)最後の喧嘩して自転車は速い△△
(無点)風の終わりに幻の犬△△△
(無点)黄ばんだ街路樹ぼくが咳をしている△
(無点)泣かず耐えたが犬は見ていた△△△
(無点)嵐の夜の信号を待つ足が冷たい△
(無点)こんなにも成つてゐるあけびの寂しさよ△△
(無点)金木犀にだれかいる△△△



(以上、30句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。




◆招待者紹介
【ロケッ子 氏】
ロケッ子氏は、私こと働猫が敬愛する表現者の一人である。
自由律俳句の句会「千本ノック」主催。
同句会は私が初めて参加した句会でもある。
また、以前Twitter上で「百縛百句」という企画を行った際には、
「有能な美人秘書」を自称し、ブログ運営ほか実務的な面をすべて担っていただいた。
その句には特有の(特異な)青春の匂いが漂う。
時に思春期の少女そのもののように、
時に過ぎた少女時代を愛でるように。

 




◆作者発表(投句順 招待者、編者除く)

【馬場古戸暢】
秋の夜へ花火鳴りよる
薬効いてくる部屋に水滴の音
海が薫る橋で泣く
何も聞こえない闇にうなじの白い
笑顔の頬へ陽射しやわらかい


【風呂山洋三】
少年の秋キャッチボールを壁とする
黄ばんだ街路樹ぼくが咳をしている
知らない子が返事する私の名前だ
嵐の夜の信号を待つ足が冷たい
秋の満ちゆく俺でいる食卓


【小笠原玉虫】
お前の与太もさみしい満月
泣かず耐えたが犬は見ていた
たったひとはな残ったあさがお
母娘さざめく風呂場の下を通る
ねじれて燃える秋の金魚だ


【十月水名】
わらいころげなくてはならない校歌
風の終わりに幻の犬
オカリナがオカリナを捨てたかたち
香水こぼれて時間
金木犀にだれかいる


【ロケッ子】(招待)
萩散ってそれでも笑っているしかない
最後の喧嘩して自転車は速い
火事じゃない火の燃え盛る
それぞれの傘でまっすぐな道
こんなにも成つてゐるあけびの寂しさよ


【畠働猫】(編者)
君と同じ月に雨降る
迷いは薄墨色の夜に溶く
王様も俺も裸
胸にくちづけて秋茜
痛む手と手重ねてオリオン


以上6名

2014年9月30日火曜日

第二十七回研鑽句会


◆最高得点句

歯を削る機械があつて僕は小さな猿になる  中村一洋

◆互選集計

(4点)歯を削る機械があつて僕は小さな猿になる  ◎○○
(3点)まぎれもせぬ蝶の屍として流れてゆく  ◎○
(3点)ひとりでいるから蟹を怒らせている  ◎○
(3点)アイシャドウ強く塗つて女は冬を笑いつづける  ◎○
(2点)重い扉こんなまぶしい鍵がある  ○○
(2点)ほんとのこといえないゆびさきのさむさ  ○○
(2点)波はいつも同じ位置にくだけてゆく乳房  ○○
(1点)烏賊さいてその夜抱かれる女である  ◎●
(1点)すつかり枯れた景色に灯を吊つておく  ○
(1点)やがて夜明けの 鍋釜ひかりだした  ○
(1点)ひとり欠伸の涙をもらう石蕗の花  ○
(1点)ひまわりにいつも見られる情事の寒さ  ○
(0点)地にことばあるかどくだみの白い夕ぐれ
(0点)ちびた口紅 家計守らねば
(0点)妻のふるさとというても小さき流れ川なり
(0点)こおろぎが近寄るこちらも話したいことあり
(0点)人は草を摘む牛は何処にいる牛のこえ
(0点)不機嫌でくれば水族館のタコふてくされて
(0点)さびしいぞ夜もサクラが満開で
(0点)熱のある子につけておく小さな灯りも明けちかい雨音
(0点)春の雨の靴の下で貝殻が砕ける
(0点)たれか田植えの田にうつるまなこを撮れ
(0点)ひとの家にくらして裏へ廻われば菜が青い
(0点)凍土から芹の香はずんで鳴る受話器
(0点)風でなく猫でなくひるの工房を過ぎた
(0点)昼かなかな夕かなかなに追われて書く
(0点)六時の高さから鵙が冬をくばりにくる
(-1点)とかげの目がぬれて原爆忌祈りの時刻となる  ●
(-1点)初冬のひかりのなかでススキのいのちが終つている  ●
(-2点)人は馬の文明の股を好色の釈尊  ●●

以上、30句。

※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点、コメントのみ(△)無点として集計。

―――――

◆作者発表(『自由律俳句作品史』掲載順)

飯塚朋子
重い扉こんなまぶしい鍵がある
ほんとのこといえないゆびさきのさむさ

竹村国子
烏賊さいてその夜抱かれる女である

坂井千代子
地にことばあるかどくだみの白い夕ぐれ

津田露
ちびた口紅 家計守らねば

中村一洋
歯を削る機械があつて僕は小さな猿になる

中塚檀
妻のふるさとというても小さき流れ川なり
こおろぎが近寄るこちらも話したいことあり

村田治男
人は馬の文明の股を好色の釈尊

浦賀廣己
すっかり枯れた景色に灯を吊つておく

北田千秋子
人は草を摘む牛は何処にいる牛のこえ

中谷みさを
とかげの目がぬれて原爆忌祈りの時刻となる

西村秀治
不機嫌でくれば水族館のタコふてくされて
初冬のひかりのなかでススキのいのちが終つている
さびしいぞ夜もサクラが満開で

勝慶子
波はいつも同じ位置にくだけてゆく乳房

池沼両間子
熱のある子につけておく小さな灯りも明けちかい雨音
まぎれもせぬ蝶の屍として流れてゆく
春の雨の靴の下で貝殻が砕ける

漆原利男
たれか田植えの田にうつるまなこを撮れ

江崎美実
ひとの家にくらして裏へ廻われば菜が青い
やがて夜明けの 鍋釜ひかりだした

切目とき
凍土から芹の香はずんで鳴る受話器

小島花枝
ひとり欠伸の涙をもらう石蕗の花

水谷雅
風でなく猫でなくひるの工房を過ぎた

村山砂田男
ひとりでいるから蟹を怒らせている
昼かなかな夕かなかなに追われて書く

高須梅之助
ひまわりにいつも見られる情事の寒さ
アイシャドウ強く塗つて女は冬を笑いつづける
六時の高さから鵙が冬をくばりにくる

―――

『自由律俳句作品』所収の作品のうち、1920-24年に出生した俳人の句より30句を抽出した。その中には、中塚檀(1922-1993)や北田千秋子(1923-)の名前もみられる。彼らはおよそ、戦前より昭和後期、果ては平成に至るまで生き抜いた。山頭火・放哉以降顕信以前にあって、現代においても読まれるべき様々な句が詠まれていたことについて、私たちはより一層自覚的でなければなるまい。
―――

出典:上田都史ほか編『自由律俳句作品史』永田書房、1979年。

第二十七回鍛錬句会



◆最高得点句

夜の疲れた影と出掛ける  洋三
青春も幸福も過ぎてしまってコンビニがまた建つ  働猫
猫の声近くトンボとすれ違う帰路  古戸暢

◆互選集計
(3点)夜の疲れた影と出掛ける  ◎○
(3点)青春も幸福も過ぎてしまってコンビニがまた建つ  ◎○
(3点)猫の声近くトンボとすれ違う帰路  ◎○
(2点)できすぎた月に鮫  ○○
(2点)咳、訃報、咳  ◎
(2点)逃げないでと叫ぶ人みな斜め  ◎
(1点)軋むブランコわたしがひとつみのむしふたつ  ○
(1点)夜闇、母のもとまで雨横たわっている  ○
(1点)小言からそっと逃げ虫の音に包まれる  ○
(1点)夏は終わったシャツを着て寝る  ○
(1点)本九割手放してここからみたことない世界  ○○●
(1点)煙草一本これで優しくなれる  ○
(1点)町の輪郭あらわに雨音  ○
(0点)散髪の予約をいれる夏の終わりだ  ○●
(0点)亡き友の武勇を話す夜の秋めく
(0点)とおい国に行ってみごとな早口言葉
(0点)句を選ぶ夜を虫が鳴きよる
(0点)越えられない壁がある子のお尻押す子
(0点)犬の毛先で遊ぶ秋の日
(0点)ぼくの夜の奥が付録
(0点)庭を横切る初秋の風に目覚める
(0点)突っ立ってただ笑う布教婦人の消極
(0点)海月に刺された男の脛毛の濃い
(-1点)目を閉じて小さく世界を肯定する溜め息ふたつ秋の闇  ○●●
(-1点)教授の筋肉痛が分かりやすい  ●

以上、25句。

※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点、コメントのみ(△)無点として集計。

―――――

◆作者発表(投句順、編者除く)


畠働猫
目を閉じて小さく世界を肯定する溜め息ふたつ秋の闇
青春も幸福も過ぎてしまってコンビニがまた建つ
町の輪郭あらわに雨音
軋むブランコわたしがひとつみのむしふたつ
咳、訃報、咳

十月水名
ぼくの夜の奥が付録
できすぎた月に鮫
とおい国に行ってみごとな早口言葉
教授の筋肉痛が分かりやすい
逃げないでと叫ぶ人みな斜め

風呂山洋三
散髪の予約をいれる夏の終わりだ
亡き友の武勇を話す夜の秋めく
庭を横切る初秋の風に目覚める
夜の疲れた影と出掛ける
煙草一本これで優しくなれる

小笠原玉虫
犬の毛先で遊ぶ秋の日
小言からそっと逃げ虫の音に包まれる
本九割手放してここからみたことない世界
突っ立ってただ笑う布教婦人の消極
夜闇、母のもとまで雨横たわっている

馬場古戸暢
句を選ぶ夜を虫が鳴きよる
越えられない壁がある子のお尻押す子
猫の声近くトンボとすれ違う帰路
海月に刺された男の脛毛の濃い
夏は終わったシャツを着て寝る

2014年8月24日日曜日

第二十六回鍛錬句会


最高得点句

拾いに来ないボールのあって夏の昼◎◎○(5点) 風呂山洋三

互選集計

子猫いなくなった家のチャイム鳴る◎◎△(4点)
人が燃えたと話す女と新宿におる◎○△(3点)
相談して花を撃つ○○△(2点)
朝顔あかい子ら子ら○○(2点)
白いセダンの連れてきた真夏の夜のにおい○△△△(1点)
歩をすすめる次々と蝉のたつ○△△(1点)
うまいこと言う顔の赤い夜だ○△△(1点)
下の名前で会いに来た○△△(1点)
香水効きすぎているバス降ります降ります○(1点)
かんな真っ赤に吹き出す三叉路○△(1点)
ふたり汚した雨強くなる○△(1点)
さわやかな夫婦で子が五人いる○○●(1点)
夕立の雨を蹴る夜が来る○●△(0点)
ニッポンが滅びる花火観衆は無力に囀る●(-1点)
南極でも呪われる●△△(-1点)
会いたくもない故人も来た迎え火●△(-1点)
どの神に祈れど短夜曳光弾に引き裂かれ△(無点)
遠い花火を犬と聞いてる△△△(無点)
勝手に星座こしらえる姉妹△△(無点)
祖霊の夢をみた日盛△(無点)
点滴中に聞くはちみつの話△△△(無点)
さっきまで女性ひとりのオープンカフェ△(無点)
頬張る頬はゼリー二個△(無点)
夜のトイレットペーパーが夜の音だ△△△(無点)

*以上全25句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。
*コメント欄に句評を紹介します。そちらにおいて(△)はコメのみ(無点)の意味。

作者紹介

小笠原玉虫
遠い花火を犬と聞いてる
歩をすすめる次々と蝉のたつ
祖霊の夢をみた日盛
かんな真っ赤に吹き出す三叉路
会いたくもない故人も来た迎え火

十月水名
トイレットペーパーの音が夜の音だ
南極でも呪われる
勝手に星座こしらえる姉妹
相談して花を撃つ
点滴中に聞くはちみつの話

畠働猫
ふたり汚した雨強くなる
さわやかな夫婦で子が五人いる
下の名前で会いに来た
どの神に祈れど短夜曳光弾に引き裂かれ
ニッポンが滅びる花火観衆は無力に囀る

馬場古戸暢
夕立の雨を蹴る夜が来る
子猫いなくなった家のチャイム鳴る
人が燃えたと話す女と新宿におる
朝顔あかい子ら子ら
頬張る頬はゼリー二個

風呂山洋三
さっきまで女性ひとりのオープンカフェ
白いセダンの連れてきた真夏の夜のにおい
うまいこと言う顔の赤い夜だ
香水効きすぎているバス降ります降ります
拾いに来ないボールのあって夏の昼

2014年7月31日木曜日

鉄塊第六回VT句会選句選評結果



▽最高得点句

悪戯は静かに卵になる時間      (10点)【タケウマ】



▽部門ごと上位句

【自由律俳句】(3句)
罪のようで隠した蝶の鱗粉      ( 9点)【琳譜】
壁と話す人のいる夜が明けた     ( 5点)【風呂山洋三】
逃走逃走カレーの匂いするほうへ   ( 4点)【うぐいす】


【定型俳句】(4句)
待つひとのあるおにぎりや草茂る   ( 6点)【さはらこあめ】
人類の未来その手にバナナ反る    ( 4点)【十猪】
すずしくてしょせんわれらは食器かと ( 4点)【十月水名】
星涼しペットボトルの不意に鳴る   ( 4点)【うぐいす】


【題詠句(兼題「悪」)】(3句)
悪戯は静かに卵になる時間      (10点)【タケウマ】
白い椿ぼとぼと私は悪くない     ( 6点)【風呂山洋三】
蓮の花悪い女になるのです      ( 4点)【うぐいす】


【コンプリート句】(◎と○と●のすべてを獲得した句)(1句)
すずしくてしょせんわれらは食器かと ( 4点)【十月水名】
◎○○○●△△



▽個人別合計上位者

タケウマ   (14点)
風呂山洋三  (12点)
琳譜     (12点)
うぐいす   (12点)
さはらこあめ ( 9点)
馬場古戸暢  ( 7点)



▽互選集計結果

悪戯は静かに卵になる時間               (10点)◎◎◎◎○○△
罪のようで隠した蝶の鱗粉               ( 9点)◎○○○○○○○
待つひとのあるおにぎりや草茂る            ( 6点)◎○○○○△△
白い椿ぼとぼと私は悪くない              ( 6点)○○○○○○△△
壁と話す人のいる夜が明けた              ( 5点)○○○○○△△
逃走逃走カレーの匂いするほうへ            ( 4点)◎○○△△
人類の未来その手にバナナ反る             ( 4点)○○○○△△
すずしくてしょせんわれらは食器かと          ( 4点)◎○○○●△△【コンプリート句】
星涼しペットボトルの不意に鳴る            ( 4点)○○○○△△
蓮の花悪い女になるのです               ( 4点)○○○○△
数える小銭に汗の滴る                 ( 3点)○○○△△
ベビーカーで轢かれた蝉とハンカチ           ( 3点)◎◎●△△△△
マニュアルに沿いたるラブとピース夏至         ( 3点)◎○△
夏服の少女の袖を通る風                ( 3点)○○○○●△△△
般若やどしてひどい悪阻だ               ( 3点)○○○△△△
粗末な家族で星月夜                  ( 2点)○○
世の矛盾へ投げつけるコンドームの薄さ         ( 2点)○○△△△
玉葱や太陽いつも燃えている              ( 2点)○○△
悪たれがヒマワリのように泣いている          ( 2点)◎△△△
転がって誰のものでもない焼き茄子           ( 2点)○○○●△
夕立が迫る街行く猫子猫                ( 2点)○○△△
短夜にきよらきよらと落つる月             ( 2点)○○△
半夏生鎖骨にかかるきみの息              ( 2点)◎△△△
悪い面して逃げ出す子ら子ら              ( 2点)○○△△△
お坊さん用の座布団も投げて悪人            ( 2点)◎△△△
ケルベロスを撫でつつ雨やどり             ( 1点)○△△
悪人でなにが悪い生きのびる              ( 1点)○△△△
レコード33回転の3がキスしたがっていたぼくらだった ( 1点)○△△
つながらない気持ちばかり行き交っている        ( 1点)○△△
何も満たされていない肥満体              ( 1点)○△△△
哲学の蛙水面の風に鳴く                ( 1点)○△△
ピアノやみ指の行方は半夏雨              ( 1点)○△△
碧眼の少女過ぐるや半夏生               ( 1点)○△△△
悪ふざけで人類できちゃった              ( 1点)○△△
悪人が死ぬボタンを押した               ( 1点)○△△
悪と善と切り分けられずまた薄い朝           ( 1点)○△△
向日葵や悪童の汲む山の水               ( 1点)○△△△
独り身に 閻魔いなりの 甘辛さ            (-1点)●△△
もみ消された悪が踊っている頭をプチッと潰す      (-1点)●△△
倒されて悪女の膣に搾られて              (-1点)●△△
阿久悠はみんなの悪友だった昭和歌謡          (-1点)◎●●●△△△
弱さは悪か                      (-5点)●●●●●△△
いぬ安心させよう笑顔で帰る              ( 無点)△△
スイスに行ったような顔の鳥              ( 無点)△△△
剣道の荷物で犬をとおせんぼ              ( 無点)△△△△
薄皮の飛び出す爪や夏期休暇              ( 無点)△△
アゲハの子らに悪心                  ( 無点)△△△
稀に優しき悪人や夾竹桃                ( 無点)△△

(以上、48句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



▽作者発表(投句順)
上から次の順に掲載
「自由律俳句」
「定型俳句」
「題詠句(兼題「悪」)」


【畠働猫】
粗末な家族で星月夜
ピアノやみ指の行方は半夏雨
悪人が死ぬボタンを押した

【馬場古戸暢】
数える小銭に汗の滴る
夕立が迫る街行く猫子猫
悪い面して逃げ出す子ら子ら

【さはらこあめ】
悪たれがヒマワリのように泣いている
待つひとのあるおにぎりや草茂る
向日葵や悪童の汲む山の水

【風呂山洋三】
壁と話す人のいる夜が明けた
碧眼の少女過ぐるや半夏生
白い椿ぼとぼと私は悪くない

【Keiten666】
ケルベロスを撫でつつ雨やどり
夏服の少女の袖を通る風
倒されて悪女の膣に搾られて

【十猪】
悪人でなにが悪い生きのびる
人類の未来その手にバナナ反る
稀に優しき悪人や夾竹桃

【十月水名】
スイスに行ったような顔の鳥
すずしくてしょせんわれらは食器かと
悪ふざけで人類できちゃった

【琳譜】
罪のようで隠した蝶の鱗粉
短夜にきよらきよらと落つる月
悪と善と切り分けられずまた薄い朝

【うぐいす】
逃走逃走カレーの匂いするほうへ
星涼しペットボトルの不意に鳴る
蓮の花悪い女になるのです

【北大路京介】
世の矛盾へ投げつけるコンドームの薄さ
マニュアルに沿いたるラブとピース夏至
もみ消された悪が踊っている頭をプチッと潰す

【タケウマ】
玉葱や太陽いつも燃えている
転がって誰のものでもない焼き茄子
悪戯は静かに卵になる時間

【木曜何某】
ベビーカーで轢かれた蝉とハンカチ
剣道の荷物で犬をとおせんぼ
お坊さん用の座布団も投げて悪人

【前田_獺太郎】
何も満たされていない肥満体
独り身に 閻魔いなりの 甘辛さ
アゲハの子らに悪心

【なかやまなな】
レコード33回転の3がキスしたがっていたぼくらだった
薄皮の飛び出す爪や夏期休暇
阿久悠はみんなの悪友だった昭和歌謡

【はるか】
つながらない気持ちばかり行き交っている
哲学の蛙水面の風に鳴く
弱さは悪か

【小笠原玉虫】
いぬ安心させよう笑顔で帰る
半夏生鎖骨にかかるきみの息
般若やどしてひどい悪阻だ



以上16名




▽以下、コメント欄に参加者選評を掲載する



2014年6月30日月曜日

鉄塊会則の掲示




・入会の規則
45歳以下の方のみ、入会可能。50歳を越えると退会。
入会時に、『鉄塊衆名簿』に掲載するための、自選5句・所属結社名・生年月・居住地(県名まで)を提出する。

・編集当番の仕事 (毎月ごとに、順番で交代。)

鍛錬句会と、研鑽句会の編集作業を担当。
毎月、編集作業の日程を会員にメール連絡する。

○月○日 投句〆切
○月○日 選句発表
○月○日 選句〆切
○月○日 結果発表




・議長当番の仕事 (毎月ごとに順番で交代。)
毎月、会議の日程を会員にメール連絡する。

○月○日 議題〆切
○月○日 議題発表
○月○日 可決〆切
○月○日 結果発表



 
・鍛錬句会のきまり
自選5句を、各自が編集当番に提出。
編集当番の采配で、毎月一人ずつ、鉄塊衆以外の俳人をゲストとして、招待して句会を開催する事が可能である。


・研鑽句会のきまり
研鑽句会は、その月の編集当番が、開催するか中止にするかを決定する権利を持っている。
また、取り上げる俳人や選句数をどれほどにするかを選ぶ権利も、編集当番に任されている。
           

2014年6月29日日曜日

第二十五回 鍛練句会

最高得点句

会えなくなる人の目玉かわいている(うぐいす)
隣から悲鳴のあって夏めく夜だ(風呂山洋三)


互選集計

(4点)会えなくなる人の目玉かわいている◎◎
(4点)隣から悲鳴のあって夏めく夜だ◎○○
(3点)ちょうどよい月のないすきま◎○
(3点)にわかに苛立って鯖を斬首す◎○
(3点)約束は昨日だったビビデバビデブウ○○○
(1点)肺の中てふてふつかれている◎●
(1点)きのうのカレーぬくめる台所に窓がない○
(1点)詠めない空に雷雨○
(1点)本音言わぬ女の唇が薄い○
(1点)出目金黒くて大きすぎるまつり○
(1点)雨の後の風にタバコの煙乗せた○
(1点)花びら消えた古井戸の闇覗く人のいる○
(1点)飲みすぎた命日の甘い吐瀉物○
(1点)おそろしく水呑んで百合しろく咲く○
(1点)笑うて笑うて明日へ眠れん○
(-1点)正午みたいに広いひらめ●
(-2点)親からの電話だ無視する●●
(0点)花咲け馬鹿の庭に咲け○●
(0点)ペディキュアに土下座している五月闇○●
(無点)よく働いた夜の歯磨き粉たっぷり
(無点)不幸自慢聞くふりをして見やる紫陽花
(無点)蕗あまく煮て少女恋におちゆく
(無点)雨にはためく旗と寝入る
(無点)愚痴聞いている今夜は蒸し暑い
(無点)首を回すと君が見ていた
(無点)今日のできごと枕に乗せるほくそ笑む
(無点)飛び出す猫よそこで止まるな
(無点)弱い心を許せと迫るお前切り捨てる
(無点)うつぶせても何も変わらなかった
(無点)死ぬまでさびしい風窓が鳴る


※以上全30句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。
※コメント欄に句評を掲載いたします。そちらにおいての(△)はコメのみ無点の意味。


◆ゲスト紹介

うぐいす
自由律な会「アぽろん」所属の実力派女性俳人。
NHK山口放送局「スゴつぶ」においても予選通過常連さんでした。
近頃は松山俳句ポストにおいて有季定型句も詠まれています。
わたくし小笠原玉虫の憧れの俳人さんのひとりです。


◆作者発表(ゲスト以下、アイウエオ順)

【うぐいす】
きのうのカレーぬくめる台所に窓がない
本音言わぬ女の唇が薄い
よく働いた夜の歯磨き粉たっぷり
約束は昨日だったビビデバビデブウ
会えなくなる人の目玉かわいている

【小笠原玉虫】
不幸自慢聞くふりをして見やる紫陽花
にわかに苛立って鯖を斬首す
親からの電話だ無視する
飲みすぎた命日の甘い吐瀉物
弱い心を許せと迫るお前切り捨てる

【十月水名】
ちょうどよい月のないすきま
出目金黒くて大きすぎるまつり
正午みたいに広いひらめ
肺の中てふてふつかれている
うつぶせても何も変わらなかった

【畠働猫】
蕗あまく煮て少女恋におちゆく
花咲け馬鹿の庭に咲け
ペディキュアに土下座している五月闇
おそろしく水呑んで百合しろく咲く
死ぬまでさびしい風窓が鳴る

【馬場古戸暢】
詠めない空に雷雨
雨にはためく旗と寝入る
首を回すと君が見ていた
飛び出す猫よそこで止まるな
笑うて笑うて明日へ眠れん

【風呂山洋三】
隣から悲鳴のあって夏めく夜だ
愚痴聞いている今夜は蒸し暑い
雨の後の風にタバコの煙乗せた
花びら消えた古井戸の闇覗く人のいる
今日のできごと枕に乗せるほくそ笑む


句会進行担当:小笠原玉虫





2014年6月17日火曜日

言葉の罪について


言葉を真に受ければ真に受けるほど、その言葉の罪は増していくものですが、
この度は、言葉の罪について色々と言及してまいりたいと思います。

言葉を発することが、車の運転をすることと同一の次元の行為であったとすると・・・、
果たして、ある人の、ある一言が、たしかに、人を傷つけ、時には命を奪うことも考えられる。
それが、人間が生活を営むにあたっての必要不可欠なシステムとして成立しているのが、
この、現在の地球そのものの避けられない現実となっております。

殺意を含まないつもりの言葉が、結果的に人を殺め、
殺意を含んでいる言葉が、結果的に人を操り、統括していく現状について、
その罪の重さを量刑することは、極めて困難、かつ、イタチごっこのようなタチの悪さを秘めています。

結果的に人を殺めてしまう、殺意を含まない言葉。
それは、ひとつのケースとしては、物理的現象に盲目的である場合に起こる悲劇であることが、あるように思われます。
重力の法則や、人体の肉体的構造が何も分からないまま、
脳中で物事を考えすぎる事によって、故意で無く、人が傷つけられ続けていく、という事例。
その場合のケースを阻止する為には、人と接する事よりも、まず、
3K労働と呼ばれる、「きつい、汚い、危険」を体験する事が何よりも重要であると思うようになりました。
火事が起きている最中は、はたして、火を消すことが、お金を貯めるよりも大切な事であり、
車を運転している最中は、はたして、ブレーキの度合いを把握することが、
人とのコミュニケーション能力よりも、大切なことのようです。

何をすると、人が高所から落下して死亡する可能性があるのか、
それは何よりも、自分が高い所によじ登ってみる体験が、そのままの教科書になるようです。


もうひとつの闇。
結果的に人を統括していく、殺意を含んでいる言葉。
これはこれで非常に厄介ですが、いわゆる極道は、まさしくそうなのであり、
自分の命を捨てる事が可能、という人生は、人をやたらと操作するようです。

これと対極の生き方を遂行している人にも出会ったことがありますが、
その人は、誰よりも、自分の命を大切に扱える人であり、周りの命も大切に扱える人でした。

何かを、大切にしない、という選択と、大切にする、という選択肢。

単純化すると、誰にでも当てはまる問題であり、自分自身の故意な殺意を発見しやすくなるようです。

VT句会の今回の議題は「悪」と聞きつけ、なんとなく、こんな記事を書きたくなった昨今でした。


2014年6月15日日曜日

「悪」~第六回 「鉄塊VT句会」開催のお知らせ

第六回鉄塊VT(バーリトゥード)句会 募集要項

【投句締切】   7月11日(金)

【選句表配信】  7月13日(日)

【選句締切】    7月25日(金)

【発表およびブログ掲載】  7月31日(木)

【投句方法】

  以下を課題として、合計三句をご投句下さいませ。

  1)自由律俳句 一句

  2)定型句 一句

  3)兼題【】で一句(形式は自由律でも定型でも可)
        ※句の中に必ず「」を詠み込むかたちでお願い致します。


【参加条件】

  ①「選句選評まで行えること

  ②「発表まで連絡が可能であること

  ※以上、2点。くれぐれもお忘れなきよう宜しくお願い致します。


【投句先メールアドレス】

  vt.haiku@gmail.com

  ※件名を「第六回鉄塊VT句会投句」としてお送り下さいませ。




鉄塊衆 風呂山洋三拝

2014年5月28日水曜日

第二十四回 研鑽句会


(最高得点句)

俺はここに居てはいけない海風(5点)




(5点)俺はここに居てはいけない海風◎◎○△
(3点)寒い手に寒い手がぬくい◎○△
(2点)雨を来て来ただけ◎○●(コンプリート句)
(2点)うそつきになって会いに行く秋雨◎△△△
(2点)傘借りてまだ居る○○△
(2点)眠れない口からものがたりこぼれた○○△△
(1点)なんにも無い鳩をからかう○△△
(1点)さくら咲いた道に出て仕事のことなど○△
(1点)まっすぐに帰らない満月○△△
(1点)家の焼けあとは畑になり胡瓜がとれた○△△
(1点)よく燃えそうな家の誰か出てきた○△
(1点)春が立ち上がる道の黒く○△
(1点)朝日顔ざっと洗う○△
(-1点)やわらかいところばかり触れ合ってさびしいふたりで○●●△
(-1点)俺の老後なんか気にして母は老いてる●△△
(無点)雨のあと光る道へ出た△△△
(無点)誰も物言わず影から出てくる△△
(無点)昨日がまだ枕に残っていた△△△△
(無点)だまって恐ろしくなり蝋燭のまわり△
(無点)あおい夜の夜へ行く電車△
(無点)闇へ戸を開ける△△
(無点)あかり消えた海がわらえてくる△△
(無点)犬の舌が長い日陰に入る△△
(無点)きょうだいげんかの兄弟で泣いている割れ窓△
(無点)皆が出て行った花火の音△△△
(無点)遠く来てわがままを言わなくなってしまった子と日暮れ△
(無点)忘れた声が聞こえたら春△
(無点)猫が出て行った影に入る△△
(無点)夕空迎えに来た姉の手ほそい手△
(無点)まだ帰らない人もいる海の風のするどさ△△


(以上、30句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆作者紹介

【天坂寝覚】(1985~)

 天坂寝覚として自由律俳句、雨鼠として短歌を創作している。
 雨鼠(うそ→amenez)は寝覚(しんかく→nezame)の読みを変えたアナグラムである。
 ツイッターを中心に活動する若手表現者の間ではカリスマ的な存在である。
 私(働猫)にとっても、最も注目し、かつ刺激を受けている才能である。

 今回の句群は、以前見せていただいた100句のうちから、
 私(働猫)が特選あるいは並選でとるであろう30句を選んだ。
 そのため、今回自分では逆選を選ぶことができなかった。


第二十四回 鍛練句会


(最高得点句)

桜咲くかしら痩せた手をとる(4点) 
【働猫】



(4点)桜咲くかしら痩せた手をとる◎○○△
(3点)さよなら揺れてカンパニュラ夜香る◎○
(3点)菜の花ここにも霧は晴れた◎○
(2点)待つ夜の耳を洗う○○
(2点)フラミンゴことごとく顔を挿す◎△
(2点)眼鏡きえた夜の君の線だけみゆる○○△△
(2点)電気消す派のきみの骨白かった◎△
(2点)赤いチューリップ庭のあった証である○○△
(1点)居間の畳へ雫垂らす髪も春か○△
(1点)マグカップ恥ずかしいほど割れて目の前に落ちる○
(1点)深夜の窓辺に立つ顔の無い女だ○△△
(1点)素晴らしいおんなだ墓石色のワンピース着て笑む○△
(1点)君の腹の遠く鳴っとる○△△△
(-1点)花雨に濡れて眼鏡はずすべき夜●△
(-1点)まだ生きているパンジーを引き抜く自称庭好きよお前は醜い●△△
(-3点)黙って炊き出しを啜るこれが戦争体験者だ●●●
(無点)父の知らないパンが美味い△△△
(無点)またひとが死んだ線路脇でひなげしが揺れる△△
(無点)衝動買いした服のセンスを春の憂いと呼べ△
(無点)熱いマスクひき剥がしじっと夜を睨んでいる△△
(無点)真昼の月あり発泡酒のみきれぬ△△△
(無点)トイレに流した薬も効いてきて月おぼろ△
(無点)街灯を壊して歩くガラスの星座踏みしめてゆく△△
(無点)年輪を重ねて夜を叫ばず眠る△△
(無点)この街では珍しいきちがいが泣いてる雨降り続ける△△



(以上、25句)
※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。



◆招待者紹介

 【りんこ 氏】

 りんこさんは、私こと働猫が注目する表現者の一人である。
 ツイッターや自身のブログを中心に作品を発表されている。
 自由律俳句に留まらず、短歌なども詠む。
 その句や歌には、純粋さや羞恥心にも似た瑞々しい感性が溢れている。
 




◆作者発表(投句順 招待者、編者除く)

【馬場古戸暢】
居間の畳へ雫垂らす髪も春か
真昼の月あり発泡酒のみきれぬ
眼鏡きえた夜の君の線だけみゆる
菜の花ここにも霧は晴れた
君の腹の遠く鳴っとる


【風呂山洋三】
衝動買いした服のセンスを春の憂いと呼べ
フラミンゴことごとく顔を挿す
深夜の窓辺に立つ顔の無い女だ
赤いチューリップ庭のあった証である
黙って炊き出しを啜るこれが戦争体験者だ


【小笠原玉虫】
またひとが死んだ線路脇でひなげしが揺れる
熱いマスクひき剥がしじっと夜を睨んでいる
まだ生きているパンジーを引き抜く自称庭好きよお前は醜い
街灯を壊して歩くガラスの星座踏みしめてゆく
この街では珍しいきちがいが泣いてる雨降り続ける


【りんこ】(招待)
父の知らないパンが美味い
マグカップ恥ずかしいほど割れて目の前に落ちる
電気消す派のきみの骨白かった
トイレに流した薬も効いてきて月おぼろ
素晴らしいおんなだ墓石色のワンピース着て笑む


【畠働猫】(編者)
待つ夜の耳を洗う
花雨に濡れて眼鏡はずすべき夜
さよなら揺れてカンパニュラ夜香る
桜咲くかしら痩せた手をとる
年輪を重ねて夜を叫ばず眠る


以上5名

2014年4月28日月曜日

第二十三回鍛錬句会

最高得点句 

 

(7点)春めく道で拾ったナイフだ◎◎◎○ 風呂山洋三


(4点)花の色帯びて硬い雪である◎◎
(3点)食うためだけの煤けた電車だ◎○
(2点)苺くれたあの日の兄に金送る○○
(1点)春の雨飲んで別れ○
(1点)知らない子から石をもらう春の昼○
(1点)Ora Orade Shitori egumo(だれもわたしをゆるして呉れない)○
(1点)あまったあたまがチューリップ○
(1点)かなしい辛いものを食べる○
(1点)つついてくる女の指先の懐かしい白さ○
(1点)豚が豚殺して狼に仕事がない○○●
(1点)とんび鳴くこの身に夜が傾く○
(1点)独り言大きくなって鰆のうまい夜○
(1点)古いママチャリの鳴き声○
(0点)古いドア達の鳴き声
(0点)生きて帰ったばかがねむった
(0点)狂っても気付いてくれない野原
(0点)傘を盗られて春雨がやさしい
(0点)寝付けぬ面した女を喰らう
(0点)煮詰まる夜が唾液がぬるい
(0点)蕾桜の公園集う妊婦たち
(0点)窓開けておく春が入ってきた○●
(0点)魚類図鑑ひらくぶらんこ
(0点)サイコロの自立
(0点)また君のいない朝だ
(0点)おばあちゃんの鼻唄も青空
(-1点)やめろ沈丁花頭頭がいたい●
(-1点)自信が亡い●
(-1点)好きな食べ物はチョコだ●
(-1点)グーよりチョキに似て交尾●

【風呂山洋三】
・春めく道で拾ったナイフだ
・蕾桜の公園集う妊婦たち
・窓開けておく春が入ってきた
・独り言大きくなって鰆のうまい夜
・知らない子から石をもらう春の昼

【小笠原玉虫】
・食うためだけの煤けた電車だ
・かなしい辛いものを食べる
・生きて帰ったばかがねむった
・傘を盗られて春雨がやさしい
・やめろ沈丁花頭頭がいたい

【十月水名】
・春の雨飲んで別れ
・あまったあたまがチューリップ
・魚類図鑑ひらくぶらんこ
・狂っても気付いてくれない野原
・グーよりチョキに似て交尾

【馬場古戸暢】
・寝付けぬ面した女を喰らう
・つついてくる女の指先の懐かしい白さ
・とんび鳴くこの身に夜が傾く
・おばあちゃんの鼻唄も青空
・煮詰まる夜が唾液がぬるい

【畠働猫】
・Ora Orade Shitori egumo(だれもわたしをゆるして呉れない)
・また君のいない朝だ
・豚が豚殺して狼に仕事がない
・花の色帯びて硬い雪である
・苺くれたあの日の兄に金送る

【中筋祖啓】
・古いドア達の鳴き声
・自信が亡い
・サイコロの自立
・好きな食べ物はチョコだ
・古いママチャリの鳴き声

2014年4月23日水曜日

さはらこあめ親睦会

この度は、草原の俳人さはらこあめさんをゲストに招き、
『さはらこあめ親睦会』なるイベントを開催しました。

これは、鉄塊集が各自、さはらこあめさんの句集の中から選句をし、
さはらこあめさんに対してのメッセージを提出。
それを読んだこあめさんが、各自に対しての返事を書く、という内容になります。


鉄塊衆の選句


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・小笠原玉虫さんの選句

◎もうたくさんです夕焼け
迷いなく特選はこちらに。わたしがこあめさん作品を好きになるきっかけとなった記念の句です。衝撃でした。夕焼けをこんなふうにやけっぱちに詠んでもいいんだ! と、目が覚める思いが致しました。
 「そっとしといてくれ金木犀」も同じ意味で好きですが、「もうたくさん」の方がより強い拒絶を感じさせるため、大変好みです。わたしが自由律でやりたいと思っていることのひとつ「拒絶の表現」を、このように短く、鮮やかにキめてしまって、どうしてこれにジェラシーを覚えずにいられようか(いや、いられない、ギィィィ!!)。皆がほっとし
 たりおセンチになったりしているであろう夕焼けにもうたくさんと言い放つ。このアウトローっぷりは憧れであります。アウトローの痛みを知る人は大変魅力的です。このことを、わたしは声を大にして申し上げたかった。(玉虫)

○毒のある花が赤く細く開いている赤いパンプスを買った
 いいですね、きっと彼岸花のことでしょう。彼岸花とパンプスの取り合わせが大好き、面白い。真っ赤な彼岸花から、いつも女の脚を連想しているわたしは「おおお!」と膝を打ちましたよ、御句を拝見して瞬間。毒・赤・パンプスと並べていながら、ウェットすぎる女性性を押し出していないのが流石。むしろキリッとした印象を受けるのは、詠み人と対象との距離のせいかもしれない。この距離感は実に見事。わたしは入り込みすぎてべちゃっとした作句をしがちなので、折に触れてこの距離感を思い出したいと思います。Excellent!(玉虫)

○なつかしいうたが流れる明るすぎるコンビニから夜をのぞく
 いいですね。誰にでも覚えのある、少しさみしい夜の光景と思いました。用もないのに明るさにつられてふとコンビニに立ち寄る。偶然、なつかしい思い出の曲がかかる。ふいに思い出につかまって、わずかにたじろぎながら、ひとり。コンビニには店員やほかの客など、自分以外の人間もいるのに、思わずはっと目を見開いてしまうくらいにひとりに感じたのでしょう。そして恐る恐る外を覗けば、真っ黒い夜が滔々と身を横たえている。わたしは自由律にはさみしそうであってほしい。この句にはその点で理想的すぎるほどの「ぽつん感」があります。実にうつくしい。さみしさも美に昇華出来るのだとしたら、それは人類にとって救いであります。さみしいのは自分だけではないのだという救いを覚える句。詩ってこれが正解という気がする。(玉虫)

○桜咲くらしく母は死んだ
 これは凄い。と、いうか、拝見した瞬間、先を越された感でいっぱいになりながら、同類を見つけた嬉しさを同時に覚えました。大変いいです。またまたわたしが自由律でやりたいこと語りになってしまいますが、わたし「家族を無慈悲に詠んで」みたいのです。短い言葉でバッサバサ切り裂きながら、彼らの本質をつかみ出して、本人の足元に、ほらよ、ベチャッ、て投げ出してやりたい。同時にそうすることで酷く傷ついて、血だらけになっているわたし自身も一緒に投げつけてやりたい。こういうことをする時は、ウェットじゃダメなのです。ウェットでは笑われるばかりで届かないことでしょう。この句のように研ぎ澄まさなくては。やりたいことそのままで、大変興奮致しました。わたしも湿度を排して研ぎ澄ますことをここに誓います。(玉虫)

○雷はまだか雨のてっぺんを睨む
 スゲーーーーーいい!! 大変いいです。夕焼けの句に共通するものをここでも感じます。季節や天気なんかに和んだりしないぞという拒絶の決意を感じる。「雨のてっぺん」の雷を「睨む」という行為は、神への挑戦ですね。神に中指を立てて生きる。言うのは簡単ですが実行は非常に難しく、また、その継続は更に難しい。それをやってのけてやるという俳人の決意と受けとりました。やはりこの詠み人はアウトローです。背筋をぴんと伸ばした、筋金入りのアウトローです。雨の冷たさをいやという程知りつつも、雨になんか負けないと決めている。カッコいい。わたしもあとに続きたいと思います。(玉虫)
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五句選には漏れましたが、以下の句も大好きッス!

せめるものはいないよるのしんとする
死にたいまま生きている鼻をかむ
 お日様はいつも居る私は時々居なくなる
花びらがまだ濡れている電車を乗り過ごす
誰とも話さなかった爪先へ百日紅ひとつぶ
週末に蝉が豪雨となり更ける

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・風呂山洋三さんの選句

こんばんは。さはらこあめ鑑賞文、送信いたします。

どしゃぶり連れて歩くかかと
写生句というものは、ただそのままを詠むというのではなく、余情を秘める、あるいは読み手自身の余情を引き出すというのがポイントとなるだろう。この句の場合も、もしかしたら彼女は見たままを詠んだのかもしれない。だが、私自身の中で情景が大きく広がった句である。
 「どしゃぶり」をあえて「連れて歩く」という描写には強さを感じる。それは堂々となのかもしれないし、虚勢なのかもしれない。いずれにしても「どしゃぶり」に対して真っ向から向き合う意志が感じられるのだ。
また、着目すべき点として「かかと」をあげたい。彼女の句には、句材に「足」を用いた句が他にもいくつか見受けられる。

 砂浜へ置いてきた裸足
 足跡から雪が解けていく
女性なら靴を句材に用いることが、男性に比べ多いかもしれない。しかしながら、ここではアイテムとしての「靴」ではなく、身体の一部をしての「足」を表現している。「足」は主に「移動」を司る部位である。そう考えると、ますます空想の翼が広がるのを抑えきれない。彼女はどこに行こうとしているのだろう。そんな言葉さえ頭をよぎる。もちろん、これは私の空想に過ぎない。ただ、ここまで余情を引き出せるところに、彼女の句の持つ力を感じてならないのである。

 忘れていく人に名前呼ばれた
 これは恐らくは認知症の方のことだろう。認知症は新しい記憶を保てないことが多い。そんな方から名前を呼ばれたのだから、さぞかし嬉しかったに違いない。しかしながら、句自体からはその喜びを感じさせないような客観的な視点で描かれている。「忘れていく」という哀しみさえも同時に表現したかったのかもしれない。その哀しみの中でのささやかな喜び。私はそんな風に捉えてみた。
また、他の類句を引いておきたい。

 記憶を病む人の記憶に居た
 そういえば、こんな言葉を思い出した。
 「記憶には残らなくても、感情が覚えている」
たとえその人が誰なのかを忘れてしまったとしても、その人といると心が安らぐなどの感情は残るものらしい。とすれば、彼女は「記憶を病む人」の「記憶」だけではなく「感情」にも存在しているのかもしれない。
 彼女のやさしい人柄を、思わずにはいられない句である。

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・十月水名さんの選句

お世話になります。十月水名です。さはらこあめ親睦会に参加します。

・雲が灰色で動かん
口語表現にクスリとさせられた。「灰色の雲」とせず「雲が灰色」としたことで、濁音が二つになり、リズムを作っている。

・青で進む赤で止まる寒い
社会の秩序を守る規則、ルールに個々の感情は関係ない。だが、感情におもむいて行動するのが人間だ。最後の「寒い」は、社会のルールに対するささやかな抵抗にも感じられた。
以上、草原26ー4から2句、取り上げました。よろしくお願いします。

********************************

 

↓さはらこあめからの返信


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 玉虫さま

「もうたくさんです夕焼け」
この句には二つの意味があります。(うんざりだ)と(もうこんな時間、夕焼け広がって綺麗)です。二つの意味を込めるのが好きなんです。ふたご座ですし。どちらかといえば、私自身、うんざりだ夕焼けは私の中にあるから、腹一杯だよ。という気持ちになることが多いかな。ただ、詠むときは心の整理が出来た時詠めますから、この時はどちらでもなかった気がします。「そっとしといてくれ金木犀」はそのままですね。強い匂いがあまり好きではないのです。ジェラシー、いただきました(笑)

「毒のある花が赤く細く開いている赤いパンプスを買った」
 私は彼岸花が好きです。田畑の周りによく生えていますね。彼岸花の毒で田畑に虫が寄り付くのを防ぐ効果があると聞きました。
ただ、この句を詠んだ時は悪い男に弄ばれたあとだったので(笑) 所詮人間だし、年を取った女だし、純粋にはいられない。私には毒はあるが、花にはなれない。せめて赤いパンプスでも買おうか、と実際購入し愛用しています。この間も二足目買いました♪本当は赤いマニキュアをつけたいのですが、介護という職業柄つけられないのでパンプスにしました。あと、彼岸花の赤く細い部分がパンプスに似ていると思ったのもありますね。

「なつかしいうたが流れる明るすぎるコンビニから夜をのぞく」
 私は今まで自分独特の世界を詠むことが多かったが、みんなにも共通する状況を詠もうと踏ん張っていた。だが、普通、が解らなかった。元引きこもりで、フリーターや派遣工など短期の仕事でプラプラしていた私が、介護の仕事をするようになり、少しずつ変わっていき人との交流も出来るようになり、心の余裕が出来てきた。でも、やっぱり難しい、寂しい、ひとり。そんなとき、深夜に立ち寄ったコンビニで懐かしい歌が耳に入る。あの頃も悪いことばかりじゃなかったかもしれない。でも、今の私もまんざらでもないな、ってね。明るすぎる場所が苦手な私は、休むことのない街の夜の車道を見た。陰と陽のまざった位置に居ると感じた。

「桜咲くらしく母は死んだ」
この句は、層雲に所属していた時に参加させていただいていた句会に提出した「さくらさくらしく母はしんだらしく」を最近推敲しました。3月26日に母は49歳で亡くなりました。離婚し再婚相手と二人で暮らしていましたが、アルコール依存性だったこともあり、いろんな臓器を患ったのち、腎盂炎で眠ったまま息を引き取りました。だから電話で知ったんですね。そろそろ桜が咲くかな咲いたかなという時期です。この時の心境は「あっそ、桜咲くの、それどころじゃないよ、母ちゃん死んだんだよ」でした。日本が桜で賑わう光景を冷めた目で見ていましたね。私は、母を憎んでた、でもその気持ちも和らぎ、幸せになってくんなきゃ許さんよ、という気持ちになりつつありお互いに和解しようとしていた矢先のことでした。ぽっかり穴が開いた。だから、余計な言葉はいらない。さんざん憎んでいた肉親を私は許したい許してる許さなければならないと思う40歳の春。

「雷はまだか雨のてっぺんを睨む」
 私は、雨が好きです。梅雨に生まれましたし。ただ、この時はどうすることもできない宿命的なことの諦めと怒りと悲しみのごちゃごちゃで天にメンチ切ってました。しかし、天と私の目ん玉は、夕立でした。どないせっちゅうねん!ってな感じね。
たくさんお気に入りをあげてくださってありがとう。タメだからね、尚更うれしいよ。よっしゃ!あたしについてこい!

************
風呂山さま

「どしゃ降り連れて歩くかかと」
この句は初期の頃に作った句。元々定型を作っていたこともあり写生です。雨の時歩くとかかとに地面の雨や泥が跳ね返って濡れるんですよね。雨、連れて帰っちゃった、と思いました。心情を込めるため、小雨ではなく、どしゃ降りにしてウジウジ泣きながらも生きていかんといけんのじゃ、みたいな感じかな。化粧が苦手でいつもスッピンな私は基本裸足が好きです。風呂山さんの読み、なかなかするどい!やるな、風呂山♪

「忘れていく人に名前呼ばれた」
この句は風呂山さんの読み通り、認知症の方の句です。仕事で接していますので。不思議なんですよ。不思議なことがたくさんあるんです。認知症だからと言ってすべて忘れるわけではなく、認知症のレベルによりますが、職員の顔も名もしっかり覚えておられる方はたくさんおられます。人と接するのが苦手であえて飛び込んだ仕事。他者よりも頻繁に挫折が訪れます。そんななか、普段不穏になったり、健忘の頻度の強い方が名前で呼んでくださり、「がんばりんさいよ」と声をかけてくださった。泣きました。記憶より記録より気持ちに残りたいですね。
風呂山さんは、ずいぶん前にミクシーでも交流してくだってましたね。ありがたやありがたや。

 *************
十月さま

「雲が灰色で動かん」
この句も私の得意技である『やけっぱち句』ですね。広島弁です。駄目なときゃ駄目かっ、こんちくしょうめぃっ!てな感じかな。定型をやってたぶんリズム感は気にしますね。

「青で進む赤で止まる寒い」
1社会人として、人間として、道にはずれちゃいかんのじゃが、なかなかそうもいかず、『だって人間だもの  みつを』といったところじゃろうと。これもリズム感気にしましたね。
十月さんは、広島の方でしたっけ?ありがとうございました。

2014年4月10日木曜日

句の採用率


ある程度まとまった句集ないしは句群に目を通すと、その句を採るか採らないかの印を、句の上に書き入れる。採るまでにいたらなくとも、よいと思った句にも印をつける。どのような句集や句群であっても、その採用率(よいと思った句も含む)はおよそ10%前後に落ち着くようである。

山頭火の句集であれば、『草木塔』に集中して、こうしたチェックが入っている。『草木塔』における採用率は、30%程度と極めて高い。しかし山頭火の句全体でみた場合は、採用率はさほど高くない。おそらくは、10%を切る程度となろうか。山頭火の句に惹かれて自由律俳句を詠みはじめた自身にとっては、これは驚くべきことである。

一方で、顕信の『未完成』における採用率は、40%という、群を抜いて高い数値となっている。私の嗜好と顕信の句の傾向が合っていたということだろうか。これには、顕信が残した句数が少ないという事実も関連していよう。すなわち、顕信がもっと多くの句を詠んでいれば、山頭火の例と同様に、全体としてみた場合の採用率は平均値に落ち着く可能性が高い。

このようにして採用率に着目すると、自身が好きな句の傾向が、数値を以ってして見えてくる。一句一句は好きであっても、全体における採用率が低い場合も当然あろう。また逆に、記憶に残る句は少なくとも、全体における採用率が高いことも起こりうる。

ひとつの目安として、各人で句の採用率を確認してみるのも面白いだろう。これまで気付いてはいなかった自身の側面を、発見することができるかもしれない。

2014年3月30日日曜日

第二十二回 研鑽句会


最高得点句

お茶をついでもらう私がいっぱいになる

コンプリート句

若さとはこんな淋しい春なのか

互選集計

(5点)お茶をついでもらう私がいっぱいになる◎◎〇△
(4点)夜が淋しくて誰かが笑いはじめた◎〇〇
(3点)気の抜けたサイダーが僕の人生◎◎●△
(3点)遠くから貴女とわかる白いブラウス◎〇△△△
(3点) かあちゃんが言えて母のない子よ〇〇〇△
(2点)洗面器の中のゆがんだ顔すくいあげる〇〇△△
(2点)裸をふいてもらい月にのぞかれてい〇〇△
(2点) 若さとはこんな淋しい春なのか◎〇●△
(2点)春風の重い扉だ〇〇△△
(1点)だんだん寒くなる夜の黒い電話機〇△△△
(1点)淋しさは夜の電話の黒い光沢〇△
(1点)今日がはじまる検温器のふたとる〇△
(1点)影もそまつな食事をしている〇△△
(1点)立ちあがればよろめく星空〇△
(1点)父と子であり淋しい星を見ている〇△
(0点)点滴と白い月とがぶらさがっている夜△△
(0点)あけっぱなした窓が青空だ△
(0点)合掌するその手が蚊をうつ△△
(0点)雨降りは遊びに行けないボクの長ぐつ△
(0点)淋しい犬の犬らしく尾をふる△
(0点)鬼とは私のことか豆がまかれる△
(0点)電話口に来てバイバイが言える子になった△
(0点)水滴のひとつひとつが笑っている顔だ△
(0点)何もできない身体で親不孝している△
(0点)初夏を大きくバッタが飛んだ△△△
(0点)抱きあげてやれない子の高さに坐る△
(0点)ずぶぬれて犬ころ〇●△△△△
(-1点)淋しい指から爪がのびてきた●△△
(-1点)無口な妻といて神経質な夏暑くなる●△△
(-2点)自殺願望、メラメラと燃える火がある●●△△


【作者発表】

全句、住宅顕信(1961-1987)。

第二十二回 鍛錬句会


最高得点句

噛むごとに夜は白む  働猫

コンプリート句

あの猫さっきもおったでおっちゃん  水名
人混み抜けて指が十本ある  雪兎

互選集計

(6点)噛むごとに夜は白む◎〇〇〇〇
(3点)今日を終えるココアぬくい〇〇〇△
(3点)春の別れに煙草が震える◎〇△△
(2点)遺されて冴え返る星空をみている〇〇△
(2点)別々のベッドから月見えて寝る◎△
(2点)缶コーヒー握る夜があったかい〇〇△
(2点)猫の墓にできていたシーソー◎△△
(2点)夜の公園小さな火を灯す〇〇
(2点)いつもの扉開け鍵の光る◎△
(2点)あの猫さっきもおったでおっちゃん◎〇●
(2点)人混み抜けて指が十本ある◎〇●△
(1点)嘲笑の響く夕暮れの美容室〇△△
(1点)夕暮れ遠く子らの駆ける〇△
(1点)店長お前とは話しとうない昼飯〇△
(0点)あえて飛び乗れるカラス△△
(0点)紅梅も白梅も満月△△
(0点)見限らない事が償い〇●△
(0点)たどりついた羽蟻を看取るリノリウム△
(0点)少しだけかすらせてから引き寄せる△
(-1点)猫殴るお前弱ってきた春寒〇●●△
(-1点)花びら埋めるたぶん最後のひとり●△△

※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。

作者発表(投句順、編者除く)

【畠働猫】
噛むごとに夜は白む
たどりついた羽蟻を看取るリノリウム
別々のベッドから月見えて寝る

【中筋祖啓】
見限らない事が償い
あえて飛び乗れるカラス
少しだけかすらせてから引き寄せる

【藤井雪兎】
嘲笑の響く夕暮れの美容室
人混み抜けて指が十本ある
いつもの扉開け鍵の光る

【風呂山洋三】
春の別れに煙草が震える
夜の公園小さな火を灯す
缶コーヒー握る夜があったかい

【十月水名】
猫の墓にできていたシーソー
あの猫さっきもおったでおっちゃん
花びら埋めるたぶん最後のひとり

【小笠原玉虫】
猫殴るお前弱ってきた春寒
店長お前とは話しとうない昼飯
遺されて冴え返る星空をみている

【馬場古戸暢】
夕暮れ遠く子らの駆ける
紅梅も白梅も満月
今日を終えるココアぬくい

2014年3月15日土曜日

詩の言葉としての季語 ―佐々木貴子句集「ユリウス」―


この度、twitterで交流させていただいている俳人の佐々木貴子氏から氏の初句集「ユリウス」をいただいた。改めてお礼申し上げたい。

まず句そのものにふれる前に、氏の記したあとがきに注目すべき発言があったので引用する。

「…およそ十七年に及ぶ俳歴を振り返るに、そのほとんどは有季定型に対する内面的な葛藤であったと思います。表現したい何かがあるとして、それが何故季語という壁に対峙しなければならないのか、窮屈な十七音のスケールに削ぎ落とさなければならないのか、常に疑問を持ちつつも、その制限の中で表現することに、わずかながらの挑戦心をもって臨んできました。」(P170)

このような思いを持ちつつも、氏が自由律に傾かないのは興味深い。むしろ季語と十七音という制限が創作の源泉となっているようだ。私の俳歴も定型から始まったが、季語は最初から拒否していた。季語を使った俳句は、「他の誰かが書いてくれるだろう」といったある意味他人任せなところがあったし、季語の全てに感情移入するのは無理だと悟っていたからだ。詩の言葉は各人のポエジーがその都度求めるものであって、外部から押しつけられてはならないのだ。

さて、前書きはここまでにして、氏の句について語りたい。全篇を通して読んだが、言葉が油断していない。常に緊張して言葉を選んでいるといった印象がある。有季定型に対する葛藤の影響もあるのだろうが、むしろ文学表現として俳句と真摯に対峙しているがためであろう。


バラ咲いてひどく自由な昼下り

バラの可憐さに溺れず、突如現れた自由に対する疑問を呈している。このままで終わるわけが無いと本能的に知っているかのように。

金色の毬と歩きし雪野かな

氏はこういった美しい景を提示するものの、その美しさに全く拘泥していない。絶えず何かが「鳴っている」のだ。ノイズのような耳障りな音ではなく、あの世からこちらを誘うような声が。

あじさいや父の雑音母の無音

季語が詩の言葉として機能していない句はいただけないが、これは瑞々しさの中で静かに佇むあじさいの様子が違和感なく句全体に溶け込んでいる。

みな死んで赤い風船だけ残る

風船は一応春の季語ではあるが、ここではそういう事を気にしている場合ではない。むしろ季語だと意識すると、この句の衝撃が薄まってしまうだろう。皆の魂の象徴として天へと昇る風船が印象的。

垂涎の爺がまさぐる繭の穴

これが一番感銘を受けた句である。繭の穴をまさぐる理由は色々と考えられるが、その行為を「垂涎の爺」がするとは!見てはいけないものを見てしまった感があるが、己の業、ひいては人の業と向き合うのであれば、このような句から目を逸らしてはならないだろう。繭も一応春の季語ではあるが、むしろこの場合は春の句として読むより、こういった異常な景を作り出した黒幕が春と捉えるべきだ。わざわざ季節を意識しなくても、我々人間はそれに影響を受けているのだから。


季語に寄りかかり過ぎず、俳句の伝統に頼り過ぎず、表現すべきものを真摯に追い求めている良い句集だった。私は私で自由律俳句に対する葛藤があるが、氏の姿勢を見習って、それを創作に生かしていきたい。

2014年3月11日火曜日

馬場古戸暢を読む その一

友の声遠く意固地
実際の景とは違うかもしれないが、ノスタルジアをくすぐられた句。小学生の頃、友達とケンカをして「もう絶交だからな!」などと離れた位置から互いに叫んだもの。もちろん翌日には、また仲良く遊ぶのだが。大人になると、そうもいかないから困ったものだ。


叫んだ夜道で目が合った
仕事の帰り道、独り言を呟いた後にふと顔をあげると、他人に見られていた。なんてこと、あった気がする。気を付けなければ。


俺のからだを作るがいい焼肉を喰らう
焼肉を食べる時、なぜだか気合いが入ってしまう。そんな心境を見事に言い表している。いつまでも肉食でありたいものだ。

夜のかたちに寝相を変える
面白い句。『草原』が届くと毎月必ず選句を行っている。この句も他の句同様、印が付けられていた。ただ他の句とは違うのは、なぜ選んだかを忘れたということだ。何度か音読するうちに、ようやく思い当たった。にんまり。得した気分。


ゴミ袋の匂いと眠る
これは私も経験がある。コンビニ弁当の空き箱を入れていると悪臭が漂うのだ。ぜひ蓋付きゴミ箱の購入をお勧めしたい。

不思議な動きの女のヒールが高い
なるほど、よく見ていると感心してしまう。何気ない日常の景を鋭く切り取り、なおかつシンプルに表現する。それが古戸暢さんの句の特徴であろう。見習いたいものである。


※『草原』H25年6月号~平成25年11月号より

2014年3月5日水曜日

さはらこあめさんの句集感想文

生身の人物としてのさはらこあめさんは、桁外れに不器用な人間であった。
問答無用極まりない勘違いの数々。
それはまさに、自分で自分の才能に気がついていない以外の何者でも無かった。

「一体全体、どうやったらこんな事になるのだろう???」

この度、こあめさんの句集感想文を書くにあたり、余りにも本人の性格が強烈すぎる為、
冷静に句集を評価することは、どうにもこうにも困難な出来事であった。

この人が自覚していない才能とは、すなわち、

・過剰に相手に合わせることによって、時間の内容が十倍濃くなる事
・困っているという事に気がついていないくらい、困っている
・決定権を委ねることによって、あらゆる要求を受け入れてしまう事
・結果的に、まわりを全員動かしてしまう事


つまりは、他力本願の天才、という事になる。
そしてまた、句を読むと、

・いきどまりの彼岸花

と、あった。
これが、さはらこあめその人であると思った。

さはらこあめは、『いきどまりの彼岸花』のごとく血まみれの俳人なので、この人に対して、
「甘えるな」「我慢しろ」などと言ってはならない。
頭から大量に血を流している人間に、まさかそんな事は言えないはず。

むしろ、命令をするならば、「我慢するな」「排泄しろ」と、言いたい。
決定権を委ねることによって、あらゆる要求を受け入れてしまう他力本願の天才に、
命令を、するならば、

「我慢するな、もっと排泄をしろ。」

と、いう事になった。


そして・・・・・・、この人が、我慢せず、排泄をした中身は、

・もっと、みんなと仲良くなりたい

と、いう事であった。

2014年3月1日土曜日

第二十一回 研鑽句会

最高得点句
からだぢうが月になつて手すりに手を置く

コンプリート句
からだぢうが月になつて手すりに手を置く

互選集計
(7点)からだぢうが月になつて手すりに手を置く◎◎○○○○● ※コンプリート句
(4点)漕ぐ手を休め水にうつる◎◎△△
(4点)たんぽぽの花に煙草の煙かけて恋する者よ◎◎△△
(3点)子供が見ている木の実落ちず○○○△△△
(3点)みんな寝たあと花が黄色い花粉をこぼす◎○△△
(2点)若き日がゆくたんぽぽは空を見てばかり◎△△
(2点)弱い秋の日の草に残つたほのかな体温○○△
(2点)ながい日の本が静かに厚みをもつ○○
(1点)手も足も手で洗つている○△△△△
(1点)月夜のそこだけが暗くて映画館の裏道○○●△
(1点)ビールの泡が消えてからの春の浪音○△△△
(1点)子供の先生の木一つない家をたづねる○○●
(1点)履歴書をかく父と算術をしている子と秋の夜○△△
(1点)ここも此の世かかかる所に野はひろし○△
(1点)夜の花瓶が真赤にて寝汗びつしり○△
(0点)月を見て眠つた子月が残つている○●△
(0点)軍服の写真と未亡人といつも寝ている猫○●△
(0点)林檎を描き一日林檎とともにある○●△
(-2点)答の小さい割算割つてねむくなつている●●△
(無点)空は灰色に静まりてもろき木の葉なり△△
(無点)網棚の旅行鞄も畑の鴉も停まつている汽車△△
(無点)手紙なら青い切手で港に船がまつている△△
(無点)海、風呂敷がひろがつて落ちている△△
(無点)雀囀り鴉は少し遠くにいる△△


※特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。


【作者紹介】

※全句、芹田鳳車。出句は彼の第三句集『自画像の顔』より。

芹田鳳車(せりた・ほうしゃ)
1885年10月28日、兵庫県網干に生まれた。旧姓児島、姫路市鷹匠町、芹田家に入婿。日本大学商科卒。「懸葵」「宝船」等に投句していたが、「層雲」創刊とともに井泉水に師事した。1948年、輪禍に遭って脚部骨折、1954年6月11日、脳溢血にて長逝、行年70。句集『雲の音』『生ある限り』『自画像の顔』がある。(『自由律俳句文学史』より)

第二十一回 鍛練句会

最高得点句
バス間違えてマッコウクジラが見える

雪も海もない国の長い話だ

コンプリート句
バス間違えてマッコウクジラが見える

喉笛に喰いつく花の匂いの猫なり

互選集計
(5点)バス間違えてマッコウクジラが見える◎◎○○●△ ※コンプリート句
(5点)雪も海もない国の長い話だ◎○○○
(3点)息の白さも我が部屋○○○△△△
(3点)ひらけごま春の雨春の光◎○△
(3点)原稿書き終わらぬ頭に隙間風◎○△
(3点)冬の檸檬を齧って香気の結晶をみた◎○
(2点)飛び込んでいく事が礼拝○○△△△
(2点)お前のいい匂いの秘密に触れて春待○○△△
(2点)みんな冷たい石になると教えた◎△△△
(2点)喉笛に喰いつく花の匂いの猫なり◎○● ※コンプリート句
(1点)仕事終わりの冬の星空立ち止まる帰る○△△
(1点)仮止めの幸福はやっぱり飛んで消えて満月○△△
(1点)蓑虫は蓑虫のままてぶくろも見つからないまま○△
(1点)それぞれの約束の地へと出荷される座薬○△
(1点)煙草の切れた真夜中アクセル踏み込む○△
(0点)正解は一旦下に置き開ける○○●●
(0点)ご馳走様でした釣銭こそこそと拭う○●△
(-1点)雪催ちょうどダンスが終わったところ●△△
(-2点)食っちゃった絶滅したはずの動物●●△△
(無点)孕み女睨む孕み女か△△
(無点)生き物が全てひとえに見ゆる時△△
(無点)おっぱい飲んで姪はゆっくり歩きはじめた△△
(無点)深夜のバイクの遠ざかる音寝床の寒い△△
(無点)月夜残る雪に懺悔△


※以上全24句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。


作者発表(投句順 編者除く)

【馬場古戸暢】
息の白さも我が部屋
おっぱい飲んで姪はゆっくり歩きはじめた
原稿書き終わらぬ頭に隙間風

【小笠原玉虫】
冬の檸檬を齧って香気の結晶をみた
お前のいい匂いの秘密に触れて春待
喉笛に喰いつく花の匂いの猫なり

【中筋祖啓】
生き物が全てひとえに見ゆる時
飛び込んでいく事が礼拝
正解は一旦下に置き開ける

【畠働猫】
月夜残る雪に懺悔
蓑虫は蓑虫のままてぶくろも見つからないまま
仮止めの幸福はやっぱり飛んで消えて満月

【十月水名】
食っちゃった絶滅したはずの動物
ひらけごま春の雨春の光
バス間違えてマッコウクジラが見える

【風呂山洋三】
仕事終わりの冬の星空立ち止まる帰る
深夜のバイクの遠ざかる音寝床の寒い
煙草の切れた真夜中アクセル踏み込む

【地野獄美】
ご馳走様でした釣銭こそこそと拭う
雪も海もない国の長い話だ
みんな冷たい石になると教えた

【藤井雪兎】
孕み女睨む孕み女か
雪催ちょうどダンスが終わったところ
それぞれの約束の地へと出荷される座薬

2014年2月2日日曜日

怪人・中筋祖啓を読む その一

趣味=すばやさ

はじめて手にした海紅誌において、この句を読んだときの衝撃をいまでも忘れない。若い頃、私は「趣味、けだるさ」を自称していた。だから句意もはっきりと伝わってきたのだ。「まさか、これが句になるとは」正直、やられた感に打ちのめされた。以来、私は祖啓さんの句から目を離せないでいる。ちなみに、表記としては「趣味 すばやさ」と「趣味、すばやさ」もあるようだ。個人的には「趣味、すばやさ」が一番気に入っている。

みんな居るまぶた押し開け見えている

これも私の若い頃を思い出した句。友人の部屋で仲間たちと飲んでいた時だ。眠くなって寝てしまい、ふと目を覚ますと誰々はまだアツく語っている。その光景はまだ夢の中にいるかのようにぼやけているのだ。

手袋に流罪

なぜか手袋の片手の方だけ無くした経験があるのは私だけではないだろう。この句では、それを「流罪」と表現している。一体、どんな罪を犯したのだろうか。そしてもしも片方だけが「流罪」の場合、もう片方はどうなるのだろうか。

蜂の為に止まる

目の前に蜂がいる。相手を刺激しないようゆっくり通ろうとするにも関わらず、なぜか近寄ってきたりと行動が読めず立ち往生してしまうことも。この句を知ってからは、脳裏にこの句が思わず甦ってしまう。こういう句からも祖啓さんの観察眼の鋭さを感じてならない。

森から登場 鳥の陣

一斉に森から飛び立つ鳥の群れを想像した。実際にそういう光景に出くわしたことがあるだけに、容易にイメージできた。しかし、実際には違うのかもしれない。そこが祖啓句の奥ゆかしさなのであろう。


※「海紅」平成二十四年八月号~十月号より

2014年1月30日木曜日

走るうさぎを追いかけて―藤井雪兎を読む

鉄塊鍛錬句会に毎月参加させていただけることは大きな喜びですが、
実はわたしにとっては非常に痛みを伴う行為でもあります。
何故なら、わたし以外の皆さんの句が良すぎるから。
選句表が送られてくる。いそいそと目を通す。
たまに、選句表を見返すのすら恐ろしくなる句があるので困ります。
初見でずきりとする。酷いダメージです。


わたしに酷いダメージを与える詠み手はいつも決まっている。
働猫さんと雪兎さん。
今日は勇気を出して、雪兎さんの作品と向かい合ってみることに致しましょう。
(働猫さんについても、近日中にじっくりと語らせて下さいませ)


最初に気になったのはこちらでした。


たっぷりと血のつまったぼくら笑いころげて


鉄塊入会前のある日のこと。
鉄塊入りたいなー、でも怖い人いるしなーと思って、わたしは言い出せずにおりました。
で、何となく連日、鉄塊ブログをうろうろと見て回っておりまして、そうだ、あの怖い人はどんなん詠んでいるのだろうと思っていたらふとみつけた、という感じでした。


意外。瑞々しい。
ショッキングな始まり。
「たっぷりと血のつまった」が非常にいいです。瑞々しく、傷つき易く、ちょっとの傷が致命傷になりそうなあやうさがありますね。
そんな繊細な「ぼくら」が「笑いころげて」いる。若さということをこれ程端的に言い表した一言を、ほかに知らないなと思いました。
おや、あの非常に怖い人は繊細な人なのか?? と思いました。


で、気になって過去句を漁ります。


そうしてたくさん見ているうちに、この人の本質は「痛み」なのだなと思い至りました。
見ないふりをして過ごしてしまえば楽なことを、敢えて凝視して傷つく。
傷ついても未来を諦めない。
だから吼えているのだなと思いました。


わたしは常々「雪兎さんの句が好き」と公言しておりますが、正直に申し上げると、好きなのかどうかよく分からない。
と、あけすけに申し上げてしまったので、更に正直に言ってしまうと、
拝見すると、余りにも強い痛みを覚えるので恐れている、というのが真実に近い。
グッサリと胸に突き刺さる語群。ダメージが大きいので、本当は見たくないのかもしれない。
でも見てしまうんですよね。気になって仕方がない。
で、気が付けばいつも追い回しているようなあんばいになっているのです。


しかしうさぎはあしがはやい。しかもずっとずっと先を走っている。
こちらはもたもたもたもた、全然追い付ける気配もありませんが、大怪我をしながら、ウォッチを続けたいと思います。


以下に、藤井雪兎作品の中でも特に好きなものを並べておきます。
ご本人は「リアリティを大事にしている」とおっしゃっていましたが、どこかファンタジックでもある、痛みでいっぱいの、瑞々しい感性に震撼していただけたら。


恐れているけど、ちょうくやしがっているんだよオレは!!!
何でこれらを詠んだのがオレじゃないんだ!!


クッソ、うさぎぶったおす


片目の伯父を父は見るなと

うでをひろげてそらのまね

この手のひらを選んでくれた雨粒

稲妻にこの姿見せに行く

全身を口にして黙っている

それぞれのにおいのする金で払っている

たっぷりと血のつまったぼくら笑いころげて

靴擦れを隠して輪に入った

救助された男の目に満月

ひび割れた眼鏡で時間通りに来た

抱きしめられ剃刀の落ちる

この雨は新宿の地下水となる立ち止まる

連作「十年前」
http://weekly-haiku.blogspot.jp/2012/12/10_1484.html



2014年1月25日土曜日

歯 車 (「海紅」平成二十六年新年号 新春譜より)



 歯車がカチッと合わさるような、そんな感触を味わったことがあるだろうか。その歯車がゆっくりと動き始める。それは得も言えぬ恍惚感なのである。
 私は大学の頃、卒業論文に太宰治について書いている。それから年月を経て、昨年までブログに感想文を上げていた。太宰は作品はもとより、その人物像でも有名な作家である。例えば、第一回の芥川賞選考の際には、こんな話がある。
 当時、はじめは太宰の『道化の華』という作品が選考作品として推されていた。しかし、川端康成らにより『逆行』という、彼の別の作品が選考作品として挙げられてしまう。その理由として、彼の私生活に問題ありとの選評が、川端康成により為されたのだ。結果、太宰は芥川賞を落選した。
 これを読んだ太宰は『川端康成へ』という文章でもって、猛烈な抗議を試みる。作品ではなく私生活に目を向けられたのが悔しかったのであろう。川端康成はこれを受け前言の撤回を文章にて表わし、両者に一応の和解が成立するのであった。
 これらの事柄は、現在ならインターネットで少し調べればすぐに知ることができる。だが、私が卒論を書いていた頃は、図書館へ通ったり、古本屋で資料を購入したものだった。そんな中、ずっと胸に引っ掛かっていた文章がある。
 “ガッチリした短篇。芥川式の作風”
 これは選考作品となった『逆行』の選評である。実は当時の私はこの作品があまり良いとは思えなかった。だから、この選評についても頷けないものがあった。
 しかしながら、昨年になって再び『逆行』を読み返した時、すっきりとした文体に、実は深いテーマを描いていることに気が付いた。これには、私自身が年齢を重ねたことも一因しているのであろう。 約20年の歳月を経て、あの選評の意味がようやく理解できた気がした。
 そこで、久しぶりにそれが書かれてあった資料に目を通し、この評を書いた人物の名を確認した。すると、そこには、瀧井孝作と書かれてあった……。
――カチッ
 そのとき、私のなかで、歯車が合わさるのを感じた。瀧井孝作。そう、碧梧桐の元で一碧楼とともに、海紅の編集に携わった先達である。
 と、まあ、こんな感じで昨年は新春譜を書こうと思っていたのだが、時間が無くて仕上げられなかった。そこで今年こそは、と思ってはみたものの、どうも続きが書けない。
 ところで、私はTwitterをやっているのだが、そこには毎日、季語を一つ紹介して下さる方がいる。その季語を用いて、多くの人が句作するのを楽しんでいるのだ。私も時折、定型句を作る機会として活用している。
 11月の、とある日曜日のことである。その日、私はTwitterからの季語で句作をしながら、以前から行きたかった古本屋へと車を走らせた。
 そこでは俳句関連の書が地下に置かれてあり、私はお宝を求める海賊のような気分で階段を降りていった。迷路のように入り組んだフロアの中頃、ようやく見つけたお目当ての棚には、富安風生や中村草田男などの句集が並んでいた。足元には段ボールが置かれてあり、棚からはみ出したものがそこに無造作に詰められている。
 ひと通り棚を見終わった後、私はその段ボールの中を物色し始めた。ここにお宝が眠っているかもしれない。丹念に箱の中を覗く。すると、一冊の句集が目に入った。そこには『瀧井孝作全句集』と書かれてあった……。
――カチッ
 そのとき、また私のなかで、歯車が合わさるのを感じた。その日の季語は「浮寝鳥」であった。瀧井先生の句集の名でもある。
 店を出て、車のエンジンをかける私の横顔は、恍惚とした表情を浮かべていたに違いない。助手席には一冊の句集。軽くアクセルを踏むと、車はゆっくりと動き始めた。


第二十回 研鑽句会

◆最高得点句
弟を裏切る兄それが私である師走  碧梧桐

◆コンプリート句
弟を裏切る兄それが私である師走  碧梧桐
正月の日記どうしても五行で足りるのであって  碧梧桐
霙れるそのうなぢへメスを刺させい  一碧楼

◆互選集計
(7点) 弟を裏切る兄それが私である師走 ◎◎○○○○●△△(コンプリート!)
(5点) 冬夜の一室の醜き女らよ許す ◎○○○△△
(4点) 闇から来る人来る人この火鉢にて煙草をすひけり ◎○○△
(3点) 正月の日記どうしても五行で足りるのであって ◎○○●△△△△(コンプリート!)
(3点) 火燵の上の履歴書の四五通 ◎○△△
(3点) 夜行列車一人の口のみかん汁垂れたり ○○○△△△
(3点) 冬の日のお前が泣くそのやうに低い窓 ○○○△△
(3点) 最後の話になる兄よ弟よこの火鉢 ○○○
(2点) 霙れるそのうなぢへメスを刺させい ◎◎○●●●△(コンプリート!)
(2点) ふくろうよ妻が一日寝てをり ◎△
(1点) 障子あけて雪を見る女真顔よ ○△△△△
(1点) お前の正直な日がくれて夏座布団 ○△△△△
(1点) 百合のゆうぐれが来るいつまで拗ねる ○△△△
(1点) さるすべり咲きひるなか電燈ともり ○△△
(0点) 反抗期で時にはなぐりたくもなるそのまなざし ○●△
( 1点) 炭の立ち消え妻を呼びたる ●△△△
( 1点) 靴磨き梅雨は仕事にならず墓参りにこの寡婦 ●△△
( 1点) 女の児真白いマント着て近より来る ●△
(無点) 砂山に日を浴びて師走の君と △△△
(無点) 畳に河鹿をはなしほうほうと言ふて君ら △△△
(無点) 冬の夜の我が持ちて人形の眼の動く △△△
(無点) 強い文句が書けて我なれば師走 △△
(無点) みなは寝し仏壇とぢてひと夜の蒲団に入る △△
(無点) 庭に下りて手を出して子野羊の頭を押すや △△
(無点)子ら迎へ火おもしろく彼の家この家 △△
(無点) 真赤なフランネルのきもので四つの女の児 △△
(無点) お前の歩むさくらの樹には桜の実 △△
(無点) 十三夜の酔ってゐる我は雨をついて出でけり △△
(無点) 庭師二日来て庭明るしかたばみ水霜の雫 △
(無点) 人のけはい暮方の降りて消ゆる雪 △
※以上全30句。特選(◎)2点、並選(○)1点、逆選(●)-1点として集計。△は無点。

◆作者紹介
【河東碧梧桐】
障子あけて雪を見る女真顔よ
火燵の上の履歴書の四五通
強い文句が書けて我なれば師走
最後の話になる兄よ弟よこの火鉢
弟を裏切る兄それが私である師走
正月の日記どうしても五行で足りるのであって

1873-1937 愛媛県生まれ。本名、秉五郎(へいごろう)。正岡子規門の高弟。高浜虚子と対立、定型・季語を離れた新傾向俳句を提唱。全国行脚して「三千里」「続三千里」をまとめた。のち自由律、ルビつき句など句風は変遷した。

【喜谷六花】
子ら迎へ火おもしろく彼の家この家
畳に河鹿をはなしほうほうと言ふて君ら
みなは寝し仏壇とぢてひと夜の蒲団に入る
庭師二日来てt庭明るしかたばみ水霜の雫
反抗期で時にはなぐりたくもなるそのまなざし
靴磨き梅雨は仕事にならず墓参りにこの寡婦

1877-1968 明治~昭和時代の俳人。明治10年7月12日生まれ。東京下谷の曹洞宗梅林寺住職。河東碧梧桐に師事。俳誌「海紅」に属し、自由律の革新派として活躍。

【小沢碧童】
砂山に日を浴びて師走の君と
さるすべり咲きひるなか電燈ともり
炭の立ち消え妻を呼びたる
百合のゆうぐれが来るいつまで拗ねる
ふくろうよ妻が一日寝てをり
十三夜の酔ってゐる我は雨をついて出でけり

1881-1941 明治-昭和時代前期の俳人。明治14年11月14日生まれ。河東碧梧桐に師事し、東京上根岸の自宅を骨立舎と命名して俳道場とした。「日本俳句」「海紅」で活躍。

【瀧井孝作(折柴)】
人のけはい暮方の降りて消ゆる雪
お前の正直な日がくれて夏座布団
庭に下りて手を出して子野羊の頭を押すや
真赤なフランネルのきもので四つの女の児
お前の歩むさくらの樹には桜の実
夜行列車一人の口のみかん汁垂れたり

1894年-1984年 日本の俳人、私小説作家。俳句を河東碧梧桐に師事し、小説を芥川龍之介、志賀直哉に兄事した。文化功労者。

【中塚一碧楼】
霙れるそのうなぢへメスを刺させい
冬の日のお前が泣くそのやうに低い窓
冬の夜の我が持ちて人形の眼の動く
闇から来る人来る人この火鉢にて煙草をすひけり
女の児真白いマント着て近より来る
冬夜の一室の醜き女らよ許す

1887-1946 明治-昭和時代前期の俳人。明治20年9月24日生まれ。新傾向自由律俳句をつくり、明治44年「試作」を刊行。大正4年河東碧梧桐とともに「海紅(かいこう)」を創刊、のち主宰。

以上、五名。